シングルでも結婚でもない、女性2人の愉快で幸福な共同生活

著者のキム・ハナ(左)とファン・ソヌ(右) Kim Hana and Hwang Sunwoo
<一人暮らしに孤独や不安を感じ始めた40代の女性2人が、気の合う相手を人生の「パートナー」に選んだ......韓国で話題のエッセイが邦訳版に>
元コピーライターのキム・ハナと元ファッションエディターのファン・ソヌ、30代半ばに知り合ったふたりは意気投合し、40歳を前にしてソウルでマンションを購入し同居生活を始める――。
2019年に刊行された2人の共同生活記『女ふたり、暮らしています。』(CCCメディアハウス刊)は、同世代の女性を中心に幅広い支持を得て、韓国国内で4万6000部を売り上げた。
本書が韓国で多くの女性に受け入れられたのは、「シングルでも結婚でもない、分子式家族」という新しい生き方の可能性を示したから。2月末に発刊された邦訳版から、冒頭の一編を掲載する。
分子家族の誕生
「ひとり暮らしが性に合っている」というのは、十年ぐらいやってみてから言うべきことだと思う。
私の場合、初めはひとり暮らしがものすごく楽しかった。友達と一緒に住んだこともあったけれど、決して広いとは言えない空間をシェアするのは、性格と生活習慣がよっぽど合わないかぎり、お互いにストレスの溜まるものだった。完全に私ひとりの空間で、足ふきマット一つから洗濯物の干し方、本の並べ方まで、自分の思いどおりにやるのが私の性格に合っていた(と思っていた)。
ところが、そんな生活が十何年も続くと別のストレスが溜まっていたようだ。いつだったか、釜山(プサン)の実家に帰った時のことだった。朝早くから両親が朝食の準備を始め、何かをぐつぐつ煮たり、がちゃがちゃと食器を並べる音に、私は自然と目を覚ました。ご飯とチゲのにおいがした。その音とにおいに包まれて横たわっていることがこのうえなく温かく感じられ、なぜか涙が出そうになった。
そんな些細なことにじんとしたのは、私ひとりで迎える静かな朝の空気はそうではないという意味でもあった。その朝以来、私は、ひとり暮らしのために注いでいるエネルギーについて意識するようになった。特に夜になると、余計な考えや不安のようなものに自分でも気づかないうちにずいぶんエネルギーを使っていた。そのつらさが、ひとり暮らしの気楽さと身軽さと楽しさを超えたのは、その頃ではなかったかと思う。
結婚は解決策ではないように思えた。ただ、ひとりでいることのつらさを避けるために結婚制度と夫の家族と家父長制の中に飛び込むのは、苦労の渦に突っ込むようなバカなまねだった。私をすっかりバカにしてくれる魅力的な男性が現れたなら別だけど。でも、それも私が望んでいることではなかった。
私は自然と、違った形の暮らし方を模索しはじめた。友達に一緒に暮らさない? と言ってそれとなく気持ちを探ってみたり、シェアハウスを探したりもした。そうして、私とよく似た事情の友達と出会い、一緒に暮らすことになった。同じ釜山の出身で、長い間ひとり暮らしをしていて、そろそろひとりでもなく結婚でもない生活を考えはじめていて、私と同様、猫を二匹飼っていた。
私たちは、銀行ローンを組んで広いマンションを買った。ふたりがそれぞれマンションを買うよりずっといい条件だった。ひとりで買える40~50平方メートルの部屋にキッチン、トイレ、玄関がぎゅっと詰まっているより、それらを備えた約90平方メートルの部屋をふたりで使うと、広くて快適だった。四匹の猫も、前とは違って広い空間を跳び回るようになった。そして、何といってもここには浴槽がある。ひとりで暮らすのにちょうどいい小さな部屋に大きな不満はなかったけれど、ただ一つだけ、浴槽がないことが本当に残念だった。