最新記事

韓国

対日レーダー照射だけじゃない......韓国「軍事行政」の闇

2021年2月19日(金)16時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅政権は日本や中国に対抗して軽空母の導入構想を推進しているが Jeon Heon-Kyun/Pool/REUTERS

<アジアでも有数の軍事力を有する韓国だが、一般部隊は士気や練度が低下しているのではないか>

韓国の徐旭(ソ・ウク)国防相は17日の国会国防委員会の全体会議で、国民に向けて謝罪した。前日に亡命した北朝鮮の男性が韓国側に越境する際、軍の監視カメラに複数回捉えられていたにもかかわらず適切な措置が取られなかったことを詫びたのだ。

このように不法越境者を見逃す軍の失態は、もう何度も繰り返されている。今回の出来事があったエリアでは昨年11月、北朝鮮軍の男性が軍事境界線を越えて韓国入りした事件と、2012年10月に亡命しようと韓国側に入った北朝鮮兵士が気付いてもらえず、韓国軍監視所の窓をノックして亡命意思を伝えた事件も起きている。

また、2019年6月には北朝鮮の漁船1隻が「東海(日本海)北方限界線」を越えて約150キロも南下したのに、韓国軍と海上警察がこれを捕捉できなかったことが発覚した。

なぜ、こうも同じような問題が繰り返されるのか。韓国はアジアでも有数の軍事力を有し、海兵隊や特殊部隊の練度の高さには定評がある。しかしその一方、兵役制度によって数だけは充足されてきた一般部隊では、士気や練度が低下しているのではないか。

北朝鮮が核ミサイル・サイバー戦・特殊戦といった「非対称戦力」に舵を切っているにもかかわらず、自己変革を怠ってきたツケが回ってきているのではないか。というのも、膨大な人員を養う兵役制度はそれ自体が巨大な公共事業であり、政治・経済的な利権が絡み過ぎて改革ができないのだ。

つまり、韓国軍の弱点は軍事行政の杜撰さにあると言ってもいいだろう。2018年12月に日本との間で発生したレーダー照射問題の背景にも、現政権の強引かつ不合理な軍事行政があったと言われている。

<参考記事:【動画あり】「日本の空軍力に追いつけない」米国と亀裂で韓国から悲鳴

しかしどうやら、文在寅政権は未だに軍の地盤沈下に気付いていないのではないか。同政権は日本や中国に対抗して軽空母の導入構想を推進しているが、軍の内情がこの有様では、どんなに豪華な兵器を揃えたところで無意味だろう。

同政権はなお、北朝鮮との融和を目指しているらしいが、金正恩総書記は軍事的な威力を以て国益の確保にまい進する意思を、1月の党大会で改めて明らかにした。そんな金正恩氏が、韓国の守りに開いた「穴」を見逃すはずがない。韓国の軍事行政の脆弱さは、同国にとって最も危機的な問題点のひとつと言えるかもしれない。

<参考記事:「韓国の空母は日本にぜったい勝てない」韓国専門家も断言

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ--中朝国境滞在記--』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

HSBCトップ、湾岸諸国の経済見通しに自信 中東紛

ワールド

イラン紛争巡る公聴会開催を、米上院民主党が要求

ワールド

米韓軍事演習、地域の安定損なう─北朝鮮の金与正氏=

ワールド

英野党党首、国王の訪米中止主張 「トランプ氏は英国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目のやり場に困る」密着ウェア姿がネットを席巻
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 10
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中