最新記事

天体

太陽系で最も遠い天体「ファーファーアウト」が確認される

2021年2月17日(水)18時50分
松岡由希子

太陽からの距離を示した図。「Farout」の先に「FarFarOut」 Roberto Molar Candanosa, Scott S. Sheppard/CIS, and Brooks Bays/UH

<観測史上、太陽系で最も遠い天体「2018 AG37」が確認された。「ファーファーアウト(FarFarOut)」との愛称がつけられている...... >

観測史上最も遠い、太陽から132AU(天文単位:約198億キロ)の地点で、天体「2018 AG37」が確認された。これまで太陽系で最遠の天体とされてきた「ファーアウト(Farout)」(仮符号「2018 VG18」)の発見時の距離124AU(約189億キロ)よりも遠いことから、「ファーファーアウト(FarFarOut)」との愛称がつけられている。

「ファーファーアウト」は、2018年1月、ハワイ島マウナケア山頂にある国立天文台のすばる望遠鏡で初めて観測された後、同じくマウナケア山に設置されているジェミニ北望遠鏡と南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡による追観測で、その軌道が確認された。「ファーファーアウト」は、遠く離れているため、ひじょうに暗く、この2年間で9回しか観測されていない。

farfarout-disc.gif

2018年1月、すばる望遠鏡で観測された「ファーファーアウト」Credit: Scott S. Sheppard


「ファーファーアウト」の大きさは、その輝度や太陽との距離から、直径約400キロと推定され、氷を多く含む天体と仮定すると準惑星の下限に近い。

太陽の周囲を一周するのに約1000年を要する

「ファーファーアウト」の距離は現在132AUで、冥王星と太陽との距離34AU(約51億キロ)の約4倍にのぼる。その軌道は細長い楕円形をなしており、遠日点(軌道上で太陽から最も遠い点)が175AU(約262.5億キロ)にある一方、近日点(軌道上で太陽から最も近い点)は27AU(約40.5億キロ)で、太陽との距離が約30AU(約45億キロ)の海王星の軌道よりも内側にある。

2018_AG37-orbit.png

wikimedia

研究チームは「『ファーファーアウト』が海王星と近づきすぎたために、強力な重力相互作用によって太陽系外縁部にはじき出されたのではないか」と考察。「これら2つの軌道は交差しているため、今後再び『ファーファーアウト』が海王星と相互作用する可能性がある」とみている。

「ファーファーアウト」の軌道は非常に長く、太陽の周囲を一周するのに約1000年を要するとみられている。研究チームは「軌道の長さゆえ、『ファーファーアウト』は天球上をゆっくりと移動する。軌道を精緻に特定するためには、さらに数年の観測が必要だ」と述べている。

大型デジタルカメラの技術進化によって発見できるようになった

「ファーファーアウト」は、米カーネギー研究所、ハワイ大学、北アリゾナ大学の研究チームが2012年から取り組んでいる太陽系外縁天体の探査の一環で発見された。研究チームは、「ファーファーアウト」のほか、「ファーアウト」の愛称を持つ「2018 VG18」、「2015 TG387」、「2012 VP113」といった太陽系外縁天体を相次いで発見している。

研究チームの一員でカーネギー研究所の天文学者スコット・シェパード博士は、「巨大望遠鏡に取り付ける大型デジタルカメラの技術進化によって、『ファーファーアウト』のように非常に離れた天体でも効率的に発見できるようになった。『ファーファーアウト』は、数ある太陽系外縁天体のごく一部にすぎない」と述べ、さらなる天体の発見に期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中