最新記事

中印対立

インド、対中意識むき出し? 「ワクチン外交」で中国やパキスタンに対抗

2021年2月9日(火)17時56分

インドの当局者は同国がカンボジアへの新型コロナウイルスワクチン出荷を承認し、モンゴルや太平洋諸島諸国への供給も計画していると発表した。写真は1月、 スリランカ・コロンボで、インド製のワクチンを手にする医療関係者(2021年 ロイター/Dinuka Liyanawatte)

インドの当局者は7日、同国がカンボジアへの新型コロナウイルスワクチン出荷を承認し、モンゴルや太平洋諸島諸国への供給も計画していると発表した。同日にはアフガニスタンにも同国からワクチンが届いた。これは、全てインドが拡大している「ワクチン外交」の一環だ。

狙いは、同様にワクチン供給を約束しているアジアの巨大なライバル国、中国を出し抜くことだ。モディ政権は、自国での接種計画はまだ始まったばかりだというのに、近隣諸国に英アストラゼネカが開発しインドのセラム・インスティテュート・オブ・インディアが生産するワクチン数百万回分を供与している。

モディ首相は地域諸国との関係を改善し、中国の政治的、経済的優位を押し返すために、様々な疾病向けの世界最大のワクチン生産国としての国力を駆使する構えだ。

インドのカンボジア駐在大使、Devyani Khobragade氏によると、インド政府はカンボジア向けの新型コロナワクチン10万回分を緊急承認。カンボジアのフン・セン首相からモディ氏に寄せられた依頼に応えた。カンボジアは本来、中国の重要な同盟国だ。中国も国営シノファーム(中国医薬集団)が主要な開発者であるコロナワクチンを百万回分、提供する見込みになっている。

Khobragade氏は「ほかの友好国から無数の要請があったにもかかわらず、また、インド国民への接種の約束にもかかわらず、セラムを通じた(カンボジアへの)供与が保証された」と強調した。

インドはミャンマー、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、モルディブにも、最前線の労働者を手始めに接種していくのを支援するためワクチンを送った。「ワクチン・フレンドシップ」と名付けた取り組みだ。

7日にはアフガニスタンにアストラゼネカのワクチン50万回分を送った。荒廃した同国にとって初めて届いたワクチン。同ワクチンは世界保健機関(WHO)からの緊急承認を待っている段階だ。

インドが長年、アフガニスタンに何百万ドルも投資してきたのは、仇敵・パキスタンのアフガニスタンへの影響力を押し返すための幅広い努力の1つと見なされている。インド政府筋は「このワクチンは無償供与だ」と語った。

インド外務省報道官によると、同国はこれまでに寄付ないし商業契約を通じて計17カ国に総計1560万回分を提供した。向こう数週間でモンゴル、カリブ海諸国、太平洋諸島諸国にも送られるという。同氏は「対外的な供与は、入手可能かやそれぞれの国内の必要に応じて進められている」と説明した。

インドは自身がコロナ感染者数で世界2番目に多い国で、国内では8月までに人口約13億人のうち3億人に接種する計画。1月16日に接種を開始し、同月中に医療従事者約300万人に接種したが、夏までに設定した国内目標を達成するには、接種ペースをもっと加速する必要がある。

(Sanjeev Miglani記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】



ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏

ビジネス

ECBは年内利下げせず、バークレイズとBofAが予

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中