最新記事

ロシア

ロシアの政権転覆が成功しない理由──ナワリヌイとエリツィンは違うから

An Impossible Revolution

2021年2月1日(月)18時40分
ジェフ・ホーン

magw210201_Russia2.jpg

大衆はナワリヌイの活動を支持し、プーチンを批判するが NACHO CALONGE/GETTY IMAGES

しかしエリツィンはナワリヌイとは違っていた。ナワリヌイは常に政治の「部外者」であり、それ故に大衆の信頼を勝ち得ているのだが、エリツィンは明らかに政界内部の人間だった。

スベルドルフスク(現エカテリンブルク)で建築現場の監督としてキャリアをスタートさせたエリツィンは、共産党に入党するや持ち前の政治手腕を駆使して順調に出世し、同じ改革派のミハイル・ゴルバチョフに気に入られ、最高機関である共産党政治局の委員に抜擢された。

その後、ゴルバチョフと対立して政治局を追放されたものの、わずか2年でソ連邦人民代議員大会のメンバーに選出された。そして議会の多数派を構成する民族主義者と民主派の支持を取り付けて最高会議幹部会の議長となり、ゴルバチョフの立場を徐々に弱体化させていった。

やがてエリツィンは、ソ連邦を構成する共和国の中核であるロシアの大統領に就任した。連邦を構成する多数の共和国を実質的に率いる立場だ。そして1991年8月の共産党による「反革命」クーデターを阻止し、一躍新生ロシアの「顔」となった。

あのとき、制度的には共産党側が軍隊を含む国家機関を掌握していた。だが軍隊は動かなかった。首都を守る軍隊がデモ隊の市民を蹴散らすことはなく、エリツィンを逮捕せよという命令に従うこともなかった。

機が熟すのはいつか

一方、共産党側も流血の事態は避けたかった。だから抵抗を諦め、クーデターは失敗に終わった。勝ち誇るエリツィンは2年後、当時と同じ軍隊を動かして自らに対する反乱をつぶしている。

こうしてロシアとその近隣諸国における革命の歴史を振り返ってみると、ナワリヌイの活動が政権転覆につながる見込みは薄い。

確かにプーチンの体制は腐敗しているが、その強権支配によって軍隊を含む国家機関を完璧に掌握している。彼の立場は、かつてのエリツィンよりもはるかに強い。プーチン与党の面々は政府の要職をほとんど独占して甘い汁を吸っている。民間企業も大小を問わず、プーチンのご機嫌さえ伺っていれば、面倒なことは避けられる。

もちろんロシアにも、避け難いプーチン引退の日に備えて政権移行の手続きを憲法に盛り込む動きはある。しかしそれは、プーチン後も今のエリート層が特権と利権を維持できるようにすることを目指している。

いや、ナワリヌイの運動が全く無意味だとは言うまい。今秋までには総選挙が予定されているが、彼の運動がプーチン与党の支持率をさらに引き下げるのは確実だ。プーチン時代しか知らない若いロシア人たちも、今とは違う社会を求めて動きだしている。今はまだ、それは「種」にすぎないが、やがて芽を吹き、大きな木に育つだろう。しかしそれには時間がかかる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウ和平交渉で立場見直し示唆 トランプ氏

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中