コラム

ナワリヌイより注目すべき重要人物とは?

2021年01月29日(金)11時32分

衆目を集めるミシュスチンはプーチンの禅譲を受ける? DMITRY ASTAKHOVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS

<コロナ対応で評価を高めプーチンから禅譲を受ける可能性があるのは......>

1月17日ベルリン近郊の空港。黒のアウディはモスクワ行き便の下で止まると、「ロシアで毒殺未遂に遭い」ドイツで治療を受けた反政府運動家アレクセイ・ナワリヌイとその夫人が機内に押し込まれた。

そのさまは、1917年4月にドイツ公安が戦争相手のロシアに革命家のレーニンを「封印列車」で送り付けた情景を思わせる。ロシアの駅に降り立つや支持者の前で演説をぶち、その半年後の革命で権力を奪取したレーニンよろしくナワリヌイも支持者の待ち受けるブヌーコボ空港に降り立ち演説を始めるーーかと思いきや、滑走路がなぜか急遽「雪のために」閉鎖され、離れたシェレメチェボ空港に着陸。ここでナワリヌイはロシア官憲にあっさり拘束され、2月予定の審判を待つ身となった。

レーニンが帰還したのは、2月革命で皇帝ニコライ2世が退位し、権力真空状態のロシア。だがナワリヌイは、プーチン・ロシアに降り立ったのだ。

欧米側はナワリヌイ支持一色だ。彼のチームは「プーチンの横領・蓄財」を示す映像を公表し、街頭行動を呼び掛けた。しかしナワリヌイの支持率は「毒殺未遂」後も3%前後のまま。ロシアの大衆は1990年代の大乱の再来を望んでいないし、約2時間もの長さのプロはだしの映像など、ナワリヌイ側の手回しの良さもどこかうさんくさいものがある。

どのみち彼と彼の政党「未来のロシア」は、今年最大のイベントである9月の議会総選挙に出馬できない。昨年末に改正された法律により、外国からの資金を受け政治活動をしている団体・個人は公職に就けないからだ。ナワリヌイとそのチームは、ロシア政治の外縁にとどまるのではないか。

その総選挙について当局の心配は、ナワリヌイよりも、いま議席を持つ政党がいずれも賞味期限を迎えていることだ。特に与党「統一ロシア」(党首はメドベージェフ前首相)の扱いが難しい。国民の多くはその保守頑迷ぶりや腐敗体質を嫌っている。

その一方で、衆目が向き始めているのがミシュスチン首相だ。昨年1月に連邦税務庁長官から首相に抜擢された人物で、日本なら総スカンを食らうだろうが、インターネットを駆使して税制をガラス張り・合理化・迅速化し、徴税率も大きく上げた優れ者だ。筆者が現地で乗ったタクシーの運転手も納税手続きが簡単になったと喜んでいた。彼のイメージは明るい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日米首脳が電話会談、日中関係の悪化後初めて 高市氏

ワールド

パレスチナ、過去最悪の経済崩壊 22年分の発展が帳

ワールド

中国の新規石炭火力許可、25年は4年ぶり低水準に 

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、6人死亡 エ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story