最新記事

中国

「危険で脆弱な超大国」独裁国家・中国のトリセツ

China Is Both Weak and Dangerous

2021年1月13日(水)17時00分
マシュー・クレイニグ(米スコウクロフト戦略・安全保障センター副所長)、ジェフリー・チミノ(同センター・グローバル戦略イニシアティブ副責任者)

習は国家再生というビジョンの下での結束と、国際社会での野望の実現を図るが、弱点だらけの現実のせいで身動きできなくなっている。

中国は多くの人が判断するより弱いというブルーメンソルの見方は正しい。その分析は本稿筆者の私たちとも共通する。その1人、マシュー・クレイニグは新著で、中国の独裁的体制が超大国の座をめぐる対米競争において根本的な障害になっていると論じた。中国は経済成長の鈍化や、真の友好国が皆無に近いこと、不安定な国内情勢など、独裁国家に付きまとうあらゆる問題に悩まされている。

さらに、中国共産党が国内でその正統性を強化しようと必死になる様子を、ブルーメンソルは鋭く掘り下げる。

鄧小平の改革開放はマルクス・レーニン主義という党の土台を損なった。「現在の中国は魅力ある政治的信条やイデオロギーの不在を、新たな恐怖の帝国の創出によって埋め合わせている」と、ブルーメンソルは指摘する。党はマルクス・レーニン主義の代わりに、「激しさを増す帝国主義的ナショナリズムをあおっている」。

そのせいで、実態ははるかに脆弱でも、中国はアメリカとその同盟国にとって深刻な脅威になっている。「衰退する大国は台頭する大国と同じく危険だ」と、ブルーメンソルは記す。一例が、ウクライナに武力侵攻したロシアだ。

ブルーメンソルは「第3の中国像」をつくり上げた。多くの米政府関係者は、中国は巨大なライバルで、対中競争は最大の優先課題だと言う。一方で、中国は深刻な国内問題を抱えているため脅威ではなく、今後も協力し合えるという声もある。彼らとは対照的に、ブルーメンソルにとっての中国は弱く危険な国だ。

本書は終盤で問い掛ける。「どんな世界で暮らしたいか。中国共産党には、ビジョン実現のための長期的手段はなくても明確な回答がある」

しかし、アメリカは明快な答えを持たない。2017年に発表した新たな国家安全保障戦略では、中国との覇権争いの問題を正しく判断しているものの、対中競争の望ましい結末については明言していない。

世界秩序を守るために

アメリカを勝利に導くカギは何か。ブルーメンソルはその概略を描き出す。「こうした競争は代償があまりに大きく、体制存続という中国政府の重大目標を犠牲にすることになりかねないと、中国に納得させることだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中