最新記事

米中関係

最重要課題なのに「気候変動対策」の米中協力がこんなに難しいワケ

CHINA’S GREEN GAMBIT

2021年1月6日(水)19時15分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

習は協力の見返りに経済的・政治的譲歩を求めるだろう NYEIN CHAN NAING-POOL-REUTERS

<協力不可欠な人類共通の課題に対してさえ打算的に振る舞う中国と、強硬な反中・反温暖化勢力を国内に抱えるアメリカ>

バイデン次期米大統領は「二兎を追える」だろうか。1匹目のウサギが内圧への対処、2匹目がバランス外交だとしたら、答えは全く分からない。中国の封じ込めという超党派的な要求と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と協力して気候変動対策に取り組むという急務はその好例だ。

バイデンは太平洋・欧州の民主主義国と広範に連携し中国の拡張主義を抑え込む構えだ。だが習は気候変動対策に乗じてバイデンの封じ込め戦略を阻止できる可能性があると考えている。米共和党の反中・反温暖化対策の姿勢を考えればなおさらだ。

リスクはこの上なく高い。世界の2大経済──2大二酸化炭素(CO2)排出国でもある──が協力して気候変動対策に取り組まなければ、人類は悲惨な未来に直面する。だが米中いずれの政府も、両国の地政学的競争が気候変動問題での協力を阻害する可能性についてはめったに議論しない。

アメリカではCO2排出削減は中国を利するというのが通説だ。中国は世界最大のCO2排出国であるばかりか石炭消費量でも世界全体の52%を占める。中国国内で増加している中産階級は環境問題への意識が高く、深刻な汚染は中国共産党に対する支持低下につながりかねない。国際社会からの圧力も高まっている。

だがそれでも中国は、温暖化防止の取り組みにおいては中国が欧米を必要とする以上に欧米が中国を必要としていると考えている。そのため特に欧米に高い見返りを求め、今後も打算的な方法で国際社会との友好関係を維持しようとするだろう。

中国の戦略の第1の柱は既に明らかだ。2020年12月、習は国連の世界気候サミットで、2030年までにCO2排出量をピークアウト、2060年までに実質ゼロにすることを目指すと繰り返した。

同時に2030年までにさらに野心的な目標も達成すると約束。GDP当たり排出量を対2005年比65%以上削減し、1次エネルギーに占める非化石エネルギーの割合を25%に、風力・太陽光発電の設備容量を12億キロワット(2019年の約3倍)以上にそれぞれ引き上げるという。国際社会で存在感を増し、アメリカを窮地に追い込むのが狙いだ。

国内の反中感情が譲歩を阻む

第2の柱はまだ明らかではないが、中国は率先して気候変動対策に取り組み、経済的・政治的譲歩を引き出そうとするとみていいだろう。まず幅広く協力的・非対立的な国際対話を呼び掛け、削減目標達成のため関税引き下げ(トランプ政権は中国製太陽光発電パネルに最大30%の関税を課した)とクリーン技術の移転を求めるはずだ。これらの要求に加え、中国指導部は人権侵害をめぐる批判を和らげるよう欧米に圧力をかけたがるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

NZの投資家向け「ゴールデンビザ」に申請殺到、半数

ビジネス

午後3時のドルは147円前半に上昇、中東情勢悪化な

ビジネス

米のイラン攻撃で経済の不透明感増大、FRB議長証言

ビジネス

インド、世界的金融企業がデリバティブ市場強化のため
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中