最新記事

サイエンス

磁界を使った新しい接着剤が発明される......エネルギー、時間を節約できる

2020年12月28日(月)16時30分
松岡由希子

磁気接着剤によって接着された2つの木材を曲げてみせるシンガポール・南洋理工大学のラジュ教授 CREDIT: NTU SINGAPORE

<シンガポール・南洋理工大学(NTU)の研究チームは、磁界を用いてエポキシ樹脂を硬化させる新たな手法「磁気硬化」を発明した...... >

プラスチックやセラミック、木材などの接着剤として幅広く用いられている「エポキシ樹脂」は、一般に、熱や光によって硬化する。そのため、フレキシブルエレクトロニクス(折り曲げられる電子回路)や生分解性プラスチックといった熱に弱い材料や断熱材料には適用しづらい。また、その硬化過程で多くのエネルギーを要し、これを長時間かけて硬化させるための高温炉も必要となる。

既製のエポキシ樹脂を「磁気硬化性樹脂」に変えることができる

シンガポール・南洋理工大学(NTU)の研究チームは、磁界を用いてエポキシ樹脂を硬化させる新たな手法「磁気硬化」を発明した。一連の研究成果は、2020年9月20日に学術雑誌「アプライド・マテリアルズ・トゥデイ」で掲載されている。

「磁気硬化」とは、既製のエポキシ樹脂にマンガン、亜鉛、鉄を配合した独自の磁性ナノ粒子を混ぜ合わせ、この「磁気硬化性樹脂」を小型の電磁気装置で生成した磁界に通し、磁性ナノ粒子を発熱させ、短時間で硬化させるという手法だ。

磁性ナノ粒子は電磁エネルギーが通ったときに発熱するよう設計されており、その際の最大温度や加熱速度も、磁性ナノ粒子によって調整できる仕組みとなっている。

研究論文の共同著者で南洋理工大学のラジュ・ラマヌジャン教授は「磁性ナノ粒子を既製のエポキシ樹脂と混ぜるという『磁気硬化』の手法により、あらゆる既製のエポキシ樹脂を『磁気硬化性樹脂』に変えることができる」と述べている。

短時間で硬化させることができ、エネルギーを大幅に軽減できる

「磁気硬化性樹脂」は、従来の熱硬化性樹脂に比べて、短時間で硬化させることができ、この過程で要するエネルギーを大幅に軽減できるのが利点だ。

従来の熱硬化性樹脂を硬化させるには2000ワットの高温炉で1時間かかるが、「磁気硬化」によれば、200ワットの電磁気装置を用いて「磁気硬化性樹脂」1グラムをたった5分で硬化できる。硬化過程に要するエネルギーは、従来の熱硬化性樹脂のわずか120分の1にあたる16.6ワット時だ。

たとえば、スポーツシューズの場合、ゴムが断熱材で、従来のエポキシ接着剤への熱伝達に抵抗するために、ゴム底と靴のアッパー部分の間の接着剤を加熱が難しいことがよくある。磁気硬化接着剤を使うとこうしたプロセスがより容易になるという。

「磁気硬化性樹脂」は、熱に弱い材料や断熱材料を含め、より幅広く活用できる。一連の研究成果では、木材、セラミック、プラスチックに適用できることが示された。また、その強度は最大7メガパスカル(MPs)で、既製のエポキシ樹脂と同等だ。航空宇宙や自動車、電子機器、スポーツ用品、医療機器など、様々な産業にわたって応用できると期待が寄せられている。

NTU Singapore scientists invent glue activated by a magnetic field

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中