最新記事

日本社会

コロナ禍で最も影響を受けたのは、どんな人たちか

2020年11月4日(水)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

コロナ禍はすべての国民の生活に甚大な影響を及ぼしたが Kim Kyung Hoon/REUTERS

<今年7~9月の自殺者数の前年との比較を見ると、若年女性がコロナ禍で苦境に陥っていることがわかる>

コロナ禍が始まってから半年以上が経過した。学校の一斉休校、緊急事態宣言による飲食店の営業自粛、それによる従業員の雇止め、巣ごもり生活など、国民の生活に甚大な影響を及ぼしている。

対面でのやり取りの見直し、テレワーク、地方移住など、プラスの変化を促す影響もあるが、やはりマイナスの影響のほうが大きいと言わざるを得ない。失職、減収、孤独といった生活不安だ。社会に暗雲が立ち込めていることは、自殺の統計量で可視化できる。自殺は個々人の多様な動機で起きるが、それを集積すると、社会の状態を反映した傾向性が見えてくる。

今年の自殺者数を見ると、予想に反してというか、6月までは前年を下回った。だが7月以降は前年を上回り、今年の7~9月の自殺者数は5477人で、前年の同期間より419人増えた。コロナ禍が長期化するなか、貯蓄が底をついた、延々と続く孤独に耐えられなくなったなど、いろいろ想像をめぐらすのはたやすい。

ここまでは新聞で報じられたことだが、次に問うべきは、社会のどの層で自殺が増えているかだ。この点を掘り下げることで、実態をより可視化できる。<表1>は、7~9月の自殺者数が前年と比してどう変わったかを、性別・年齢層別に見たものだ。

data201104-chart01.jpg

合計欄をみると、自殺者が増えているのは女性で、男性はほとんど変化がない。コロナ禍の影響を被っているのは、主に女性であることが分かる。女性は非正規雇用が多いので、簡単に解雇され生活苦に陥った、在宅している夫からのDV被害、巣ごもり生活で望まない妊娠をした、といった事情が想定される。

年齢層別にみると増加率は若年層で高く、女性の10代は1.8倍の増加だ。<表1>には記してないが、女子高校生に限ると2.8倍にも増えている(16人→45人)。家庭内での性暴力被害によるのかもしれない。巣ごもり生活のなか、家族や交際相手から被害を受けてしまう。親密な間柄なので被害を訴えにくい。女子生徒の妊娠相談が増えているのは、メディアでも報じられている。

将来展望の悪化もあるだろう。SNSを見ると「大学進学を諦めるように言われた」という書き込みがあるが、家計の悪化により、将来展望に蓋をされた生徒もいるはずだ(とくに女子)。若者の場合、見通しの暗さと自殺が非常に強く相関することは前に書いた(「コロナ禍による将来展望の悪化が若者のメンタルを蝕んでいる」本誌サイト2020年9月16日掲載)。

若者が馴染んでいるSNSを介して、相談体制の網を張り巡らせることが急務だ。最悪の行動に走ってしまうか否かは、当人がどれほど社会に包摂されているかによる。そうした「インクルージョン」はリアルである必要はなく、デジタルを介したもの(バーチャル)でもいい。コロナ禍で対面接接触が制限されているなか、後者の重要性が増している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、12日に中東に出発 人質解放に先立ちエ

ワールド

中国からの輸入、通商関係改善なければ「大部分」停止

ワールド

インド首相、米との貿易交渉の進展確認 トランプ氏と

ワールド

トランプ氏にノーベル平和賞を、ウ停戦実現なら=ゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 5
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 6
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 10
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中