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コロナ禍で最も影響を受けたのは、どんな人たちか

2020年11月4日(水)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

データで分かるのは、コロナ禍の闇は社会の特定層に集中していることだ。自殺対策と言うと、中高年層や高齢層が主な対象とされがちだが、若年層にも目を向けなければならない。当然、対策の中身も大きく異なる。

若者は、生存権を守る砦の生活保護を受けにくいのも問題だ。22歳の女性が生活保護申請をしたところ、「親に頼りなさい」と役所に門前払いされたという(HARBOR BUISINESS Online、2020年9月20日)。22歳にもなれば、親と別居し自立するのが当たり前と考えられている欧米ではあり得ないことだろう。

妙な思い込みから、福祉の利用をためらう者もいる。店員に刃物を突き付けて現金を脅し取ろうとした、30歳女性の記事が話題になった(西日本新聞、2020年10月22日)。コロナ禍で失職し、路上生活を続けた末の犯行だが、「自分は若くて健康なので、福祉に頼ってはいけない」と考えていたという。

こういう事情からか、コロナ禍で失業者や自殺者が増えているにもかかわらず、生活保護受給者は増えていない<図1>。

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平らな線は何とも無情だ。生存権を守る砦の生活保護が機能せず、自助・自己責任で切り捨てられているように思える。よく言われるように、日本の生活保護の捕捉率は低い。

ちなみに、福祉は「頼る」ものではない。図書館を使うとか、タクシーを使うのと同様、困ったらいつでも気軽に利用するものだ。福祉については、基本的な理念のみならず、制度運用についても誤った考えがはびこっている。学校で正しい知識を教えないといけないが、現行の社会科の教科書をみると手薄な感が否めない。実際に使うことはまれでも、「いざとなったら、こういう制度がある」と知っておくだけでも、心の安泰は得られるものだ。

<資料:厚労省『地域における自殺の基礎資料』
    総務省『労働力調査』
    厚労省『被保護者調査』

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