人種差別という「原罪」とバイデンが向き合わなければBLM運動は終わらない
BIDEN, BLM AND RACISM
今年5月にジョージ・フロイド(壁画)が警察によって殺された事件は、BLM運動が再び盛り上がるきっかけとなった BRENDAN MCDERMID-REUTERS
<バイデンがアメリカを結束させるためには政府主導の真実究明が不可欠だ。本誌「バイデンのアメリカ」特集より>
2020年米大統領選で、アメリカの黒人は民主党の大統領候補ジョー・バイデンに、人種的緊張の緩和を託すことにした。
勝利を確実にしたバイデンは、さっそく勝利演説で、深く分断されたアメリカの結束を呼び掛け、自らの支持層の多様性を強調した。このとき人種的平等に焦点を当てたことは称賛すべきだが、自明な問題が指摘されることはなかった。すなわち、人種差別がまかり通っていた過去に向き合わない限り、アメリカは結束することも、人種的緊張を癒やすこともできない、ということだ。
アメリカ社会が人種的不正義についてオープンに語り合うようになったのは、ごく最近のことだ。警察による黒人殺害をきっかけに、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動が新たな盛り上がりを見せる背景には、アメリカはまだ人種差別という「原罪」を償っていないという感覚がある。それどころか、ドナルド・トランプ大統領は人種間の緊張をあおる傾向があり、人種的平等の実現を図るリーダーシップは存在しない。
アメリカが「人種的な癒やし」を実現するためには、まず白人が、黒人に対して残虐行為を働いた過去の説明責任を負う必要がある。
一部の国は、過去に自国で起こった残虐行為について特別法廷を設置してきたが、アメリカはそうした措置を取ってこなかった。そのためのインフラがないわけではない。第2次大戦から75年たった今も、米司法省はナチスの残党の摘発に力を入れている。つい最近も、かつて強制収容所の看守だった94歳の男性を、ドイツに強制送還する判決が下された。
KKK以外にも加害者はいた
ところが、アメリカの黒人に対する歴史的過ちを正す努力は、ほとんどされてこなかった。1921年のタルサ人種虐殺(オクラホマ州タルサの裕福な黒人居住区が焼き打ちと虐殺に遭った事件)や、1963年のバーミンガム教会爆破事件(アラバマ州バーミンガムで公民権運動の拠点となっていた教会が爆破され黒人少女4人が犠牲になった事件)について、司法省は犯人に法的な裁きを与える支援をしていない。
1955年、14歳の黒人少年エメット・ティルは、白人女性キャロライン・ブライアントに色目を使ったと言い掛かりをつけられ、凄惨なリンチを受けて殺された。ブライアントは後年、実はティルは色目を使ったりしていないと告白したが、ブライアントも、リンチに関わった集団も、誰一人として罪を償わなかった。