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多様化する引きこもり 9割がコンビニOK、20年働いた後に引きこもる人も

2020年11月2日(月)11時20分
印南敦史(作家、書評家)

「引きこもり」のきっかけは不登校というイメージも誤り

また、引きこもりのきっかけは不登校だというイメージも根強いが、それもまた違うそうだ。引きこもりの相談で一番多いのは、「学生時代はなんとかやってこられた。就職やバイトの経験も少しはあるが、うまくいかずにやめてしまい、結局引きこもった」というケースだというのである。

だとすれば若い人と同じように、年齢を重ねた人たちが似たような道筋をたどったとしても不思議ではない。事実、"高年齢引きこもり"も増えている。


 ハジメさん(仮名)は現在50歳。大学を卒業し、バブル期に就職しました。仕事内容はかなりブラックだったようで疲れ果て、7年後に一人暮らしから実家へ戻ります。
 今度は運転手として就職し、あまり残業もない仕事で13年勤めますが、ケガをして退職することに。その後は派遣社員として倉庫で働き始めます。ですが、派遣法が変わった影響で3年で雇止めにあいます。そこから5年間、仕事はしていません。(24~25ページより)

当初はまた職探しをしたものの、年齢制限に引っかかったり、面接で落ちたりと失敗続き。結局は、親への罪悪感を抱きながら引きこもることになった。

この年代の人たちの相談について著者が指摘しているのは、彼らに共通する"独特の閉塞感"だ。なにしろその親も高年齢なので、親が相談に出向くことが難しい場合も少なくない。

また、その下の世代にあたる40代は就職氷河期世代。ほとんどの人は希望の職に就けたという経験を持たず、時代の閉塞感をそのまま引きずっているということだ。

そしてもうひとつ。高年齢引きこもり以外で、著者がもうひとつ心配している「見えにくい問題」が、女性の引きこもりだ。


 内閣府の調査では、女性の引きこもりは15〜39歳では36.7%、40〜64歳では23.4%、全体では29.6%が女性だということになります。私たちが受けている相談での女性の割合も、だいたい2割くらいですが、この2割には深刻なケースが多いのです。(28ページより)

引きこもりになった経緯や傾向もさまざまだが、特筆すべき点は母親との距離感。母親とやたらに仲がいい人、よすぎて束縛というレベルになっている人、甘えから暴言暴力に至っている人など、母親と適度な距離感を保てている人が少ないという。

それにしても、なぜ女性の引きこもりは少ないのか。興味深いのは、この点について著者が「仮説ですが」と前置きをした上で「家事手伝い」が関係している可能性があると指摘している点だ。

内閣府の調査でも、就労状況についての問いに「専業主婦・主夫」や「家事手伝い」と回答した人は、引きこもりに含めていないという。

つまり、男性なら引きこもりと呼ばれるようなケースも、女性だと家事手伝いとみなされる可能性があるということだ。ましてや仲がよ過ぎるのであれば、家族がそのことをさほど問題視しないことも考えられる。

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