最新記事

BOOKS

「女性のひきこもり」の深刻さと、努力しない人もいる現実

2016年11月14日(月)16時12分
印南敦史(作家、書評家)

<毒親、摂食障害、虐待、リストカット、PTSDなど、さまざまな問題を抱えた『ひきこもる女性たち』。「彼女たちの努力が報われる社会にしなければいけない」と感じさせるが、本書に描かれない"別の現実"も気にかかる>

ひきこもる女性たち』(池上正樹著、ベスト新書)は、社会問題化して久しい「ひきこもり」問題における、女性のあり方を明らかにした書籍。著者は約18年にわたって「ひきこもり」事情を取材し、また当事者たちにまつわる活動や家族会をサポートしてきたというジャーナリストである。

 読みはじめてすぐ実感したのは、「ひきこもり」のあり方だ。現実的には明確に定義づけられているとはいいにくいだけに、その存在は往々にして誤解されやすい。事実、著者は「ひきこもるという行為=扉の向こうでじっと動かずにいる人たち」ではないと断言する。部屋や家から外出できるかどうかで線引きしようとすると、本質を見誤ることになるということ。そして、そんな見解に基づく著者の定義は次のとおりだ。


「ひきこもり」とは、家族以外の外部の人たちとの関わりが途絶えてしまった「社会から孤立した状態」のことを言う。中には、家族との関係さえも途切れ、誰ともつながりがない人たちもいる。(29ページより)

 当事者たちが訴えてくる内容の大半は、「どこにも行き場がない」「周囲の視線が気になって人目を避けてしまう」「なにもない自分を説明できない」などに集約されるのだという。

【参考記事】企業という「神」に選ばれなかった「下流中年」の現実

 ただし、これが"一般的な"意味においての「ひきこもり」の話だということを忘れてはならない。女性に的を絞った場合、事情はまたややこしいことになってくるのだ。

 2010年に内閣府が行った「ひきこもり実態調査」を見ると、「ひきこもり」層における女性の比率は3割強に止まるという。男性のほうが圧倒的に多いだけに、「ひきこもり=男性」というイメージが強く、苦しむ女性の声がかき消されてしまっているということだ。

 ところが現実には、「毒親」を抱えていたり、「摂食障害」や「虐待」「リストカット」「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」などさまざまな問題を抱えたまま「ひきこもり」状態になっている女性が多いのだそうだ。

 また、自ら公開している読者専用メールアドレスを通じて彼女たちの声をすくい上げている著者によれば、その年齢層も30代前半から40代後半までと幅広い。さらには、「ひきこもり」になりやすい女性に、ひとつの傾向があることに著者は注目している。


 ひきこもり状態の人々に多く見られる傾向としては、研ぎ澄まされた感受性を持ち、カンがいいために、人一倍、周囲の気持ちがわかり過ぎてしまうという特性が挙げられる。
 それだけに、自分の望みを言い出せず、逆に相手に頼まれると断れないまま、気遣いし過ぎて疲れてしまう。そして、自分さえ我慢すれば、すべて丸く収まるからと納得のできない思いを封じ込めて、社会から撤退していく。そうした真面目な人々という像が浮かんでくる。(31ページより)

 なお、上記の考え方を前提としたうえで納得させられたことがある。「いい子にならなければいけない」という気持ちを抱きながら育った結果、「ひきこもり」となってしまった人が少なからず存在することである。第2章「彼女たちがひきこもる理由」で紹介されているCさんがいい例だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中