最新記事

インド

2027年に中国を人口で抜くインド、「水不足危機」でスラムには1回4円のトイレも

2020年11月2日(月)11時25分
佐藤大介(共同通信社記者)

インドのムンバイにあるスラム街「ダラビ地区」 Mikhail Davidovich-iStock.


<1000万人規模の巨大都市が各地にあり、経済成長と中間層の拡大が見込まれるインドは、6億人がトイレのない生活を送り、毎年20万人が汚染された水によって死亡する国でもある。しかもそれは、農村部だけの話ではない。共同通信社記者の佐藤大介氏が、トイレ事情からインドの実態に迫ったルポ『13億人のトイレ――下から見た経済大国インド』(角川新書)より一部を抜粋する>

地下水の減少も進んでいる

インドは都市部を中心に人口が増加し、総人口でも2027年には中国を抜き、世界一に躍り出ると予測されている。しかし、都市部を中心に排出される下水の量が処理量を大きく上回っているように、水をめぐる問題はインド全体に大きくのしかかっている。その最たるものが、深刻な水不足だ。

2018年6月、インドの政府系シンクタンク「インド行政委員会(ニティ・アーヨグ)」は、国内で6億人が水不足に直面し、毎年20万人が汚染された水によって死亡しているという報告書を発表し、話題を集めた。ニューデリーなど21都市で、2020年までに地下水が枯渇する可能性があるとの見通しも示し、インドが「史上最悪の水不足の危機」に陥っているとして、一刻も早く有効策を取るよう警鐘を鳴らしている。

水不足の原因として指摘されているのが、急速な都市化と人口増加に伴う水使用量の増加だ。生活用水だけではなく、農業用水や工業用水も需要が増しており、報告書では、2030年までに水の需要が供給の2倍になると見積もっている。下水道や処理施設が不十分なため、排水を浄化して再利用する「水のリサイクル」は機能しておらず、重要な水源となっているのが地下水だ。インド全体の水供給量のうち、4割ほどを地下水に頼っているが、過剰な取水によって地下水の水位は大きく減少している。21都市で地下水が枯渇するとの予想は過剰取水が原因で、1億人に影響を与えると予測している。

インド全土の年間降水量は4000立方キロメートルほどだが、その8割ほどが6~9月の雨季に集中しており、水源として利用できるのは約690立方キロメートルにとどまっているとされる。一方で、水使用量の8割を占めるとされている農業部門では、そうした貴重な雨水を十分に活用できていない。インドの農業耕作地に対するかんがい普及率は34.5%にすぎず、農家の多くは地下水を用いている。人口が増えると農作物の需要も増え、それに伴って地下水の使用量も増えていき、過剰取水に歯止めがかかっていない。

アジア開発銀行(ADB)がまとめた「アジア水事情」によると、「家庭用の水道の安全性」「都市部の水の安全性」「国の水安全指数」などに関する評価で、インドは5点満点の1.6点と最低点をつけた。地下水の取水量は251立方キロメートル(2014年)と、主要20カ国・地域(G20)の中で最も多くなっている。過剰取水で地下水の水位がどんどん低下していくだけではなく、7割の下水が処理されずに放出されている状況では、貴重な地下水の汚染も進んでいく。不衛生な水が飲料水として用いられることも多く、世界122カ国を対象にした水質に関する調査で、インドの順位が120番目だったことが、その現状を物語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の習主席、台湾の野党次期党首に祝電で「国家統一

ビジネス

国内債券、1500億円程度積み増し 超長期債を中心

ワールド

自民と維新、最終合意目指しきょう再協議 閣外協力と

ワールド

米連邦裁、予算枯渇し業務縮小と職員解雇 政府閉鎖で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中