最新記事

北朝鮮

「菅首相誕生を祝う文在寅は売国奴」北朝鮮の非難に秘められた目的

2020年10月27日(火)16時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮の宣伝サイトは文在寅政権が見せてきた反日姿勢が「民心を欺くための芝居」だと糾弾した KCNA-REUTERS

<金正恩の狙いは、反日的な意見を持つ韓国の左派勢力を北朝鮮に引き付けることにある>

北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は24日、韓国の文在寅大統領が日本の菅義偉首相の就任を祝う書簡を送ったことは、「民心をないがしろにする反逆であり売国である」と非難する論評を掲載した。

文在寅氏は先月16日、菅氏に対して首相就任を祝い、日韓関係の発展を呼びかける書簡を送った。青瓦台(大統領府)が明らかにしたところでは、書簡には「韓国政府は菅新首相や新内閣とも積極的に協力し、過去の歴史問題を賢明に克服し、経済・文化・人的交流など、様々な分野で未来志向的かつ互恵的に実質的な協力を強化していく」とする内容が込められたという。

これに対して論評は、「日本はわが民族に数えきれない不幸と苦痛を強要した不倶戴天の敵だ。その数多くの罪悪の中には昨年、日帝強制徴用被害者賠償判決に対する報復として、南朝鮮に対し白昼強盗的な輸出規制措置を取り、南朝鮮経済に打撃を加えた事実もある」と言及。これまで文在寅政権が表してきた「克日」や「反日」は、「民心を欺くための芝居に過ぎなかった」と主張している。

北朝鮮のこのような主張は、これまでにも見られたものだ。

<参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は

その目的はどこにあるのか。韓国と日本の反目を煽り、自国に有利な環境を作ろうとしているのだろうか。

それもあるかもしれないが、北朝鮮のこうした言動には、より重要な目的が込められていると筆者は考える。

それは、反日的な意見を持つ韓国の左派勢力を自らに引き付けることだ。文在寅政権それ自体も左派ではあるが、やはり政権を運営するためには、米国との同盟関係を重視せざるを得ない。金正恩党委員長がどのようなラブコールを送ろうとも、少なくとも今はまだ、韓国の政権は米国の意向を完全に無視して南北関係改善にまい進することはできないのだ。

韓国政府のそうした行動をけん制するために最も有効なのは、政権の支持勢力を味方につけることだろう。

もちろん韓国の左派とて、大多数の人々は北朝鮮の主張を丸ごと受け入れはしない。しかし一部には、共感してしまう部分がないわけではない。極端な反日に振れている人の中には、北朝鮮の方に「民族の正統性」なるものを見出してしまう空気もあるのである。

<参考記事:「日本は高度に軍事大国化」...北朝鮮が「いずも」空母化で見せる不安

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ワールド

香港北部の高層複合アパートで火災、4人死亡 建物内

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中