最新記事

感染症

新型コロナウイルスは糖尿病を引き起こす? 各国で症例相次ぐ

2020年10月26日(月)12時40分

アーサー・シミスさん一家。左がアティカス君。ネバダ州ガードナービルで9月撮影。シミスさん提供(2020年 ロイター)

マリオ・ブエルナさん(28)は、子どものいる健康な男性だった。それが発熱から呼吸困難に陥ったのは今年6月。間もなくCOVID-19(新型コロナウイルス)の陽性と診断された。

数週間後、回復過程にあるように見えたブエルナさんは、脱力感を覚え、嘔吐(おうと)するようになった。8月1日午前3時、彼はアリゾナ州メサの自宅で意識を失い、床に倒れた。

救急隊員が彼を近くの病院に急送し、医師たちは昏睡(こんすい)状態を解消した後で集中治療室に運んだ。診断された病名は「1型糖尿病」。ブエルナさんは仰天し、震え上がった。これまで糖尿病の病歴など全くなかったからだ。

医師からは「COVID-19が原因だ」と言われた、とブエルナさんは言う。

ブエルナさんを襲った危機や類似の症例に見られるように、糖尿病とCOVID-19の危険な関係について新たな懸念が生じており、世界中の医師・科学者らが解明を急いでいる。COVID-19が糖尿病発症の引き金になりうると確信する専門家も多く、従来のリスク要因とは無縁だった一部の成人・子どもでさえ、例外ではないという。

糖尿病患者がCOVID-19に罹患(りかん)した場合、重症化・死亡のリスクがかなり高くなることは、すでに十分に報告されている。米国の保健当局者は7月、COVID-19による死者の40%近くは糖尿病を患っていたことを明らかにした。ここに至って、ブエルナさんのような症例からは、2つの疾病の関係が双方向であることがうかがわれる。

キングスカレッジ・ロンドンで代謝障害・肥満治療部門を率いる糖尿病研究者のフランチェスコ・ルビノ博士によると「COVID-19は、ゼロから糖尿病を発症させる可能性がある」という。

ルビノ博士は、グローバル規模で症例を収集している国際チームを率いている。目的は、今回のパンデミックにおける最大の謎の1つを解明することだ。同氏によれば、検証のために症例提供を申し出た医師は当初300人以上いたが、感染例が再び急増する中で、協力する医師の数はさらに増えると予想している。

ルビノ博士はロイターに対し「こうした(糖尿病を発症させる)症例は、世界各地、あらゆる大陸から集まっている」と語った。

このグローバル規模の症例収集プロジェクトの他に、米国立衛生研究所も、新型コロナウイルスが高血糖値と糖尿病の原因になる仕組みの研究に資金を提供している。

こうした状況では症状が急速に進み、生命を脅かす可能性がある。症状が表面化するのはCOVID-19に罹患してから数カ月も後になる場合があり、問題の全容と長期的な影響が判明するのは年明け後、かなり先になりそうだ。

COVID-19が広い範囲で糖尿病の引き金になるということが、散発的なエビデンスだけでなく、決定的に証明されるまでには、さらに集中的な研究が必要となる。

米国糖尿病協会の医療・科学部門代表のロバート・エッケル博士は「今のところ、答えよりも疑問の方が多い」と話す。「私たちは今、全く新しい形の糖尿病に取り組んでいるのかもしれない」と説明した。

「ひどく恐ろしい」診断

1型糖尿病は、人体の免疫システムが誤って膵臓のインスリン分泌細胞を破壊してしまい、血糖値の調整を阻害することで発症する。米国内の患者は約160万人だ。

もっと広く見られるのは2型糖尿病で、約3000万人の米国民が罹患している。こちらの患者ではインスリン分泌は続いているものの、長年の間に細胞がインスリン耐性を獲得してしまい、血糖値の上昇を抑えられなくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米コノコフィリップス、カナダで11月に人員削減=社

ビジネス

売り上げ低迷の米ターゲット、従業員1800人削減へ

ワールド

米、対中通商合意の順守状況を調査へ 追加関税の可能

ビジネス

カナダ、米国製ステランティス・GM車の関税免除を制
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中