最新記事

トルコ

トルコを紛争に駆り立てる「新オスマン主義」の危険度

Turkey Presses On with Activist Agenda

2020年10月14日(水)17時40分
シナン・ユルゲン(カーネギー・ヨーロッパ客員研究員)

念願のEU加盟は、いつになっても見通しが立たない。2016年のクーデター未遂事件や、シリアにおけるIS(自称イスラム国)掃討戦でアメリカがクルド人の民兵組織と共闘したことも、トルコ人の反米感情を助長した。そうしたことが重なって、西側との関係見直しを支持する世論が形成されている。

AKPが極右政党の民族主義者行動党(MHP)と組んだことも、この流れを加速した。さらにエルドアンは内政面で反リベラルの強権的な姿勢をむき出しにしており、これも西側との対話や信頼構築を困難にしている。

経済の繁栄か安全か

こうして、外交は大国トルコの復活と台頭というシナリオに欠かせない要素となった。近年のトルコ指導部が外交面でしばしば好戦的な言葉を口にするのも、このシナリオに沿っている。

このシナリオによれば、何をやっても諸外国から妨害されるのは、トルコが大国として台頭している証拠だ。外為市場でトルコの通貨が揺さぶられるのも、外国政府や怪しげな国際陰謀組織がトルコの経済成長を嫉妬し、妨害しているからということになる。地中海東部や中東地域における孤立化も、トルコが地域で突出した国になったことの必然的な結果とされる。

第3の論点は政治の現実に関連している。今のトルコは国外の紛争に次々と軍を送っているが、そんなことをいつまで続けられるのかという疑問がある。しかも今は構造改革の遅れと新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で経済が疲弊している時期だ。

2013年に9510億ドルのピークを迎えて以来、トルコの名目GDPは縮小に転じており、昨年実績は7540億ドル。この6年で2000億ドルも減った。こうなると政権与党への信頼も落ちる。世論調査によると、8月時点のAKPの支持率は31%。2018年の議会選における得票率43%から大幅に低下している。

では、経済が停滞すればエルドアンも外交面の積極介入政策を転換するだろうか。残念ながら、事実は逆だ。トルコ政府はシリアから、リビア、さらにはナゴルノカラバフへと、経済の縮小と反比例するかのように軍事介入を増やしている。経済の厳しい現実が介入を思いとどまらせるどころか、むしろ加速させている。

今のトルコは諸外国に包囲されており、絶えざる攻撃にさらされている。だから反撃せざるを得ない。少なくとも国内的には、そういう理屈が成り立つ。そして戦時に強いリーダーシップが求められるのは世の常だ。しかも、この状況は国民に偽りの二者択一を迫ることになる。経済の繁栄と国家の安全、そのどちらを採るかという選択だ。

孤立を恐れぬ好戦的なレトリックは、短期的には政治的に有効かもしれない。しかし経済の安定という長期的な目標とは両立できない。そして国政選挙で問われるのは経済の実績なのである。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年10月20日号掲載>

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月31号(3月24日発売)は「BTS再始動」特集。7人の「完全体」で新章へ、世界が注目するカムバックの意味 ―光化門ライブ速報―

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動

ワールド

イエメンからミサイル発射、イスラエル軍発表 フーシ

ビジネス

中国BYDの25年決算、4年ぶり減益 国内で競争激

ワールド

トランプ米大統領「次はキューバ」、具体策には触れず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 10
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中