最新記事

パンデミック

異常気象がスペイン風邪の世界的流行の誘因だった? 研究結果

2020年9月30日(水)17時20分
松岡由希子

スペインかぜに罹患した兵士たち。米陸軍ファンストン基地...... Public domain

<集中豪雨や異常低温が、第一次世界大戦中、欧州の死亡率は3倍に上昇させ、スペイン風邪の世界的流行の誘因となった可能性があることが明らかとなった......>

1914年から1919年にわたる欧州での異常気象が、第一次世界大戦の犠牲者の増加やスペイン風邪の世界的流行の誘因となった可能性があることが明らかとなった。

米ハーバード大学の気候科学者アレクサンダー・モア博士らの研究チームは、アルプスのコエッツリッツ氷河で採取した72メートルの氷床コアから気候史を分析し、2020年9月15日、その研究成果をアメリカ地球物理学連合(AGU)の学術雑誌「ジオヘルス」で発表した。

集中豪雨や異常低温が、第一次世界大戦の死亡率を3倍に上げた

氷床コアの分析によると、1914年から1919年までの間、海塩の成分であるナトリウムと塩素のレベルが上昇していることから、欧州の北西部からアルプスにかけて、北大西洋の冷たい海風が強く吹き込んだとみられる。この期間の欧州13カ国の降水量や気温と比較してみると、集中豪雨が続き、低温で寒かった時期と一致している。

このような集中豪雨や異常低温は第一次世界大戦下の西部戦線に影響を与え、1916年のヴェルダンの戦いやソンムの戦いでは、100万人以上が死亡または負傷した。第一次世界大戦中、欧州の死亡率は3倍に上昇。とりわけ、1914年から1915年、1915年から1916年、1917年から1918年の冬期に、海風の異常な流入によって異常低温や豪雨が発生した時期またはその直後、死亡率が上がっている。

Somme_1916.jpg

第一次世界大戦 ソンムの戦い John Warwick Brooke-wikicommons

異常気象でマガモの季節移動が変化し、スペイン風邪の流行に?

一連の異常気象は、H1N1型インフルエンザウイルスの宿主であるマガモの季節移動に影響を与え、これによって欧州でのスペイン風邪の流行を悪化させた可能性もある。マガモは通常、秋に北東方面のロシアへ移動するが、1917年と1918年の秋は、悪天候のため、西ヨーロッパにとどまった。マガモの糞に汚染された水などを介して、H1N1型インフルエンザウイルスが人へと感染しやすくなった可能性がある。

スペイン風邪の世界的流行の原因についてはいくつかの説が示されているが、環境要因から研究されたものはまだ少ない。米ボストンカレッジ(BC)の疫学者フィリップ・ランドリガン教授は、一連の研究成果について「感染症と環境との相互作用について新しい視点をもたらす、非常に確かで刺激的な研究だ」と評価している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比0.1%増 通年は1.

ビジネス

〔情報BOX〕主要企業の想定為替レート一覧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中