最新記事

中台関係

中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

Taiwan’s Military Not Ready for China

2020年9月25日(金)16時00分
ポール・ホアン(ジャーナリスト)

magw200924_Taiwan2.jpg

2019年の「漢光演習」 TYRONE SIU-REUTERS

こんな精鋭部隊でさえ、物資の不足が深刻なのだ。その他の部隊の状況は想像するのも恐ろしい。

軍も政府も、有事に遅滞なく対応できる部隊の実態を公表していない。しかし毎年恒例の「漢光演習」を含め、シミュレーションによる机上演習の際には、兵員の90%が戦闘能力を保持し、兵器類の85%以上が実戦使用に耐えることを前提としている。

「そんな数字は無意味だ。何の現実的根拠もない」。そう切り捨てるのは、台湾の退役陸軍中佐で軍事評論家のジェームズ・ホアンだ。「どれだけの戦車や銃が、本当に実戦で使える状態にあるのか。軍上層部には、それを知る手掛かりもないだろう。なぜなら、軍隊の底辺にいる兵士でさえ、いいかげんな数字を上司にあげているからだ。そうすれば将校連中はバラ色の絵を描き、上層部や政治家を喜ばせることができるわけだ」

使える戦車はわずか3割

第542装甲旅団の司令官だった退役少将の于北辰(ユィ・ペイチェン)は、黄の配属先ではあまりに多くの備品が破損または欠損していたため、正規ルートで交換を申請できない状況だったのではないかと推測する。もしも正直に報告すれば、現在の軍の体制では「軍価格」の高額な部品の購入を求められ、どう考えても予算を超過する恐れがある。

それに正規ルートでの申請にはあきれるほど煩雑な手続きが必要で、経験の浅い下級将校の手に余るという。上層部の調査が入ることを嫌うから、上官もいい顔をしない。そこで黄は、おそらく前任者たちの例に倣って書類を偽造して事態を隠蔽し、自分で穴埋めしようとしたのだろう。于はそう推測する。

ネット上のフォーラムをのぞいてみれば、補給部隊や武器庫管理の任務についてぼやく自称「退役軍人」の書き込みがいくらでも見つかる。信じ難い話ばかりだ。自腹で部品を買った、書類や整備記録を偽造した、手抜きの修理作業を見逃してやった、装備点検や演習の時期が近づくと仕方ないから別な部隊から部品を盗んだ、などなど。補給部隊での経験が長く、今も現役の曹長である陳(チェン※現役の軍人なので姓しか明かさなかった)は、悲しいけれどこれが現実だと認めた。「実戦で使える」という文句をどう定義するかによるが、と前置きして陳は言った。「米国製であれ台湾製であれ、装甲兵員輸送車の90%程度は一応走れる状態にある。しかし車軸などの整備状況が悪いから、舗装道路を50キロも走れば動けなくなる」

キャタピラ式だと、もっと悲惨だ。「私の知る限り、走行可能な状態にある戦車や自走砲は約50%だ。運よく走行できても、搭載した兵器が使える保証はない。米軍の基準で言えば、まともに走れて武器も使える戦車は全体の30%程度だろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

イスラエルがガザ空爆、26人死亡 その後停戦再開と

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中