最新記事

中台関係

中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

Taiwan’s Military Not Ready for China

2020年9月25日(金)16時00分
ポール・ホアン(ジャーナリスト)

magw200924_Taiwan3.jpg

中国の侵攻を想定した海上軍事演習 TYRONE SIU-REUTERS


それだけではない、と陳は言う。大規模な演習が始まる時期を除けば、弾薬も燃料も恒常的に不足している。メンテナンスの人材も十分だったためしがないという。

「いま中国が攻めてきたらどうなるか」と陳は言う。「こちらの戦車に実弾を積み込み、走行できる状態に仕上げるまで何日か、あるいは何週間か待ってくれと、敵にお願いするしかない」

軍備削減のしわ寄せが

軍備の老朽化には、さまざまな理由が考えられる。だが元軍人たちの言い分には説得力がある。

元海軍大尉で、今は台湾国際戦略研究センターに所属する常漢青(チャン・ハンチン)に言わせれば、最大の問題は台湾軍のあまりにも急激な、そして拙速なリストラだ。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、台湾は兵力を50 万人から20万人以下に削減する方針を打ち出した。この改革の大半は台湾国防部の作戦・計画参謀本部が立案したもので、実を言えば常自身も当時のスタッフの1人だった。

「政治家は、軍の規模を縮小して最終的に徴兵制を廃止したいと考えていた。軍の上層部も、その要望に応じるしかなかった。しかし中国の脅威が強まっていることを考えれば、戦闘部隊の削減はあり得なかった。ならば、代わりにどこを削減すればいいか。そう、まずは補給部隊だ。前線で戦う部隊がいれば後方支援の部隊は必要ないと言わんばかりの対応だった」

こうして補給部隊は予算も人員も大幅に削減された。そしてたちまち、膨大な整備作業のニーズに応えられなくなった。一方で、前線部隊の下級将校や兵士らは必要な技術も知識もないまま、複雑な整備作業や交換用部品の在庫管理を任された。その結果、整備不良や故障が増え、交換用部品やリソースの配分が狂う悪循環に陥った。

台湾軍が最近発注したM1A2エイブラムズ戦車もそうだが、アメリカ製の最新ハイテク兵器は従来の兵器よりも大きくて重く、構造も複雑だ。だから今の体制では十分なメンテナンスができない。分かり切ったことだ。

「数週間程度の訓練しか受けていない戦車の操縦士が、200ものメンテナンス項目があるM60戦車の整備を任されたらどうなるか」と于は言う。「適当に書類をごまかして、整備完了と報告する以外に方法はないだろう」

どうすればいいか。考えられる解決策の1つは民間企業の手を借りることだ。軍隊の使うトラックや装甲車両も、民間企業に整備を委託したほうが効率的に、しかも安上がりになる可能性がある。

現に米軍は民間企業を活用している。76万の民間人と56万の民間業者が、予備役を含めて220万の軍人を支えている。台湾軍はどうか。15万3000人の軍人に対して民間スタッフは8000人だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中