最新記事

日本政治

次期首相にのしかかる3つの難題──ポスト安倍の日本を待ち受ける未来

Japan After Abe

2020年9月15日(火)19時00分
シーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)

北朝鮮は近年、イージス・アショアのようなミサイル防衛システムをかいくぐる能力を急速に強化してきた。一方、配備予定地の住民からは安全性を疑問視する声が相次ぎ、それに対応するためのシステム改修には巨額の費用がかかることが分かった。さらに配備後の維持・運用費も一段と膨らむ可能性が高まり、もはや配備を正当化することが難しくなったのだ。

イージス・アショアの配備断念を受け、安倍政権は国防体制の見直しを図ることを決めた。まずは中長期的な安保の基本方針を記した「国家安全保障戦略」を改定するという。この中で特に議論になりそうなのが、いわゆる敵基地攻撃能力の獲得だ。

日本はこれまで、憲法に基づき専守防衛の方針を貫いてきた。しかし近年、弾道ミサイルなどで攻撃を受ける可能性が高まったとき、実際に攻撃を受ける前に、敵基地を攻撃する能力を保有するべきだという声が高まっていた。

アジア地域の軍事バランスが急速に変化するなか、次期首相は日本の防衛体制を専守防衛から攻撃能力保有へと歴史的転換を図るか否かの判断を迫られる。

安倍の後継者が直面する第3の大きな課題は、高齢化社会に対応するための一連の構造改革だ。日本では既に、65歳以上の高齢者が人口の28.4%を占める。2040年には、その割合は35.3%まで上昇するとみられている。

高齢者の増加は、国家財政の大きな圧迫要因となるだろう。どの国であっても年金改革は国民の理解を得にくい問題だが、避けて通ることは難しい。しかも日本の政府債務は既に対GDP比200%を超える。新型コロナが財政に与える影響も無視できず、公的債務問題は今後一段と差し迫った優先課題となる。

社会の高齢化は、労働力人口の減少も意味する。日本が世界第3位の経済規模を守るためには、生産性を大幅に引き上げる必要がある。

安倍政権はそのための構造改革に着手してきた。例えば農業改革の一環として、安倍は農地を企業向け用地に転用することを可能にしたり、農産物の国際的な需要開拓・輸出拡大をサポートするといった施策を進めてきた。

安倍が率いる自民党の農業政策は伝統的に米農家の支援に偏っていたが、一連の農業改革で、より多様な農家に大きなチャンスがもたらされた。

実際、農産物の多様化と輸出推進策は農業部門を活気づけ、農家の間でも輸出を意識した農業経営が広がってきた。農業部門の国際的競争力を高めることは、TPP(環太平洋経済連携協定)に参加するために必要な市場開放を実現する上でも重要だ。アメリカが離脱したものの、TPPは「包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)」として継続しており、2025年までに日本のGDPを2%押し上げるという試算もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中