最新記事

メディア

西側メディアを装うロシアのプロパガンダ戦略 旧ソ連時代の手口が復活か

2020年9月8日(火)11時28分

多くの記者が知らずに協力

ピース・データの「スタッフ」は通常、ウォルターズさんなどの記者に、ツイッターのダイレクトメッセージかビジネス特化型ソーシャルネットワークのリンクトインを通じて接触する。報酬は記事1本当たり100ドルから250ドルで、インターネット送金で即座に振り込まれる。

ロイターが取材した記者は全員、ピース・データの背後にロシアがいることを1日時点まで知らなかったと答えた。

一部の記者は、コロナ禍中に簡単に金を稼げる仕事だと思った、と話した。この仕事を業界でのチャンスと見た記者志望者もいた。うち1人は5月に出た記事について「自分の記事が独立系ニュースメディアに掲載されたのはこれが初めてだった」と語る。

ピース・データ側から政治面で明白な指示を受けなかった記者がいる一方、編集方針を不快に感じた者もいる。

ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏やトルコについての記事をピース・データに執筆した記者は「私の記事に大げさな政治的切り口を入れられた」と説明。「政治テーマについて特定の視点からフォーカスを絞るよう繰り返し求められたため、みるみるうちに、ニュース記事とは言えない代物になった」と話した。

ジョンズ・ホプキンス大のトーマス・リド教授によると、偽組織を使い、人々を無意識のうちにプロパガンダのエージェントや活動家に仕立てる手法は、旧ソ連時代にさかのぼる。

16年以降、オンラインで影響力を強化する取り組みが増えるにつれ、「正体を隠し続ける」ために旧来の手口に先祖返りしたようだとリド氏は言う。

「誰でもだまされかねない」

フリー記者のウォルターズさんは自身の経験を振り返り、オンラインで人々をだます手口を市民に周知することの重要性が示されたと話す。

「ここまで(手口が)洗練を極め、ここまで力を注いでいるのは、彼らがそれだけの価値があって成果が出ると考えているからに違いない」とウォルターズさん。

「私がだまされるなら、だれでもだまされ得ると思う。ただ私自身、こんなに興味深い体験は今後相当遠い先までできないだろう」

(Jack Stubbs記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「1週間以内に実現可能」

ワールド

イラン、IAEAの核施設視察を拒否の可能性 アラグ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中