最新記事

タイ

聖域「王室」にも迫る タブーに挑むタイ若者の民主活動

2020年8月17日(月)11時46分

今月初めの2日間にわたるビデオ会議で、タイのカセサート大学・マハナコン大学に所属する10数名の学生たちは、投獄のリスクを冒してもタブーを破り、タイの強力な君主制に公然と異議を申し立てるべきか議論していた。写真は7月、マハ・ワチラロンコン国王のポートレートの横を通過する反政権デモの参加者(2020年 ロイター/Jorge Silva)

今月初めの2日間にわたるビデオ会議で、タイのカセサート大学・マハナコン大学に所属する10数名の学生たちは、投獄のリスクを冒してもタブーを破り、タイの強力な君主制に公然と異議を申し立てるべきか議論していた。ビデオ会議の参加者2人が明らかにした。

街頭、オンラインでの抗議行動参加者のあいだでは、ここ数ヶ月、民主主義の拡大を訴えるなかで、婉曲にマハ・ワチラロンコン国王に言及する例が増えていた。だが、公然と王制改革を訴える者はいなかった。

2人の参加者によれば、このビデオ会議で学生たちは、『ハリー・ポッター』シリーズの魔法使いをテーマにした抗議活動について協議した。J・K・ローリングの人気シリーズで主人公ハリーの宿敵を指す「名前を言ってはいけないあの人(He-Who-Must-Not-Be-Named)」と呼ぶだけで、公然たる対決の寸前で踏みとどまることも検討された。

だが、もっと明確な、そしてリスクの高い表現を求める主張が勝利を収めた。

8月3日月曜日の夜、人権派弁護士のアノン・ナンパ氏(35)、バンコクの民主記念塔脇に設けられた演壇に立ち、王室の権限縮小を求めた。タイ国内では極めて珍しい事件である。

彼は警察官の監視を受けつつ、200人ほどの抗議参加者に対し「民主主義国家で、軍に関してこれほど大きな権力を国王に認めている国はない」と語りかけた。「これによって、民主主義国家における君主制が絶対君主制に転じるリスクが増している」

タイはこの数十年間、政治の混乱に翻弄されてきたが、街頭デモの参加者が君主制の改革を求めることは過去には見られなかった。憲法では王室について「崇敬すべき存在」としての立場を保たなければならないと規定している。

2016年に没するまで70年にわたり君臨したワチラロンコン王の父、プミポン・アドゥンヤデート前国王の時代には、君主制に対する異議申立ては、いかなる形であれ、きわめて珍しかった。

アノン氏も他の抗議参加者も、タイの不敬罪法違反による告発は受けていない。この法律は、君主制に対する批判について最長で禁固15年の刑を定めている。

だが、8月7日金曜日、警察は7月18日に行われた別の抗議行動に関連してアノン氏を「社会不安及び不信の扇動」など複数の容疑で勾留していることを明らかにした。最長で7年の禁固刑となる可能性がある。

弁護士のウィーラナン・ファドスリ氏によれば、アノン氏はすべての容疑を否認しているという。同氏は8日に保釈された。

国防省のコンチープ・タントラワニット報道官は、「王室を対立に持ち込まないでほしい。不適切だ。王室はタイ国民の統合の中心だ」と話す。


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中