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中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史からそれは明らか

STATE WIRETAPS GO BACK A LONG WAY

2020年8月6日(木)14時15分
カルダー・ウォルトン(ハーバード大学ケネディ政治学大学院研究員)

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ヤードリーが書いた暗号文 U.S. NATIONAL SECURITY AGENCY

もしスティムソンがブラックチェンバーに紳士的ではない仕事を続けることを許していたら、通信会社と密約を交わし、ケーブルを通る通信をことごとく盗聴できたはずだ。そして当時の世界に潜む戦略的脅威について、もっと情報を得ることができただろう。

スティムソン自身はその後、フランクリン・ルーズベルト政権の陸軍長官となり、皮肉なことに、アメリカの暗号解読部隊によって得られた日本軍の暗号通信文を第2次大戦で大いに利用することになった。

エニグマ解読の大きな成果

あの大戦でイギリスがドイツの通信を大量に収集し、それが連合軍の勝利に貢献したことは、今ではよく知られている。ドイツはエニグマという暗号機を開発した。キーボードとスクランブラーと呼ばれる装置で構成されるエニグマは、何十億種類もの暗号を生成できた。だから当時の技術では、事実上解読不能だった。

だがマシンの弱点を調べ、ドイツの捕虜が持っていたコードブックを利用することで、ロンドン郊外のブレッチリーパークに集まった暗号解読チームは、エニグマ暗号を解読するマシンを作り上げた。こうして通信の解読は一大産業となり、1943年には毎月3000~4000件の暗号を解読していた。

ブレッチリーパークの戦争中の業績は今やよく知られているが、戦後の歴史はあまり知られていない。イギリスの諜報機関が戦後になってブレッチリーパークの業績をなるべく秘密にしようとした主な理由は、当時の植民地政府がエニグマを通信に利用していたからだ。

実際、戦争末期にイギリス側はドイツから何千台ものエニグマを押収し、通信の秘密に不可欠と説いて各地の植民地政府に渡していた。

エニグマ機を使用したこれらの植民地の通信は、戦後ブレッチリーパークに代わって暗号解読基地となったGCHQの格好のカモだった。

イギリス政府はまた、独立後の元植民地の政府を説得して、GCHQが作った暗号を採用させた。1957年にサハラ以南のアフリカで初めて独立した英領ゴールドコースト(後のガーナ)もGCHQが渡した暗号を使っていた。公表された記録では事実関係は不明だが、ガーナ政府の通信はイギリスに筒抜けだったと考えるのが妥当だろう。

冷戦の時期に通信を大量収集できたことは、イギリスの国益に貢献した。当時の英米両政府にとって、独立を求めるアフリカなどの植民地国家がソ連に同調するかどうかは死活的に重要な問題だった。

元植民地におけるソ連の、そして共産主義の脅威について、イギリスは高度な情報評価能力を持ち、政策立案者の不安を緩和できた。

戦後、冷戦が始まると、イギリスのGCHQとアメリカの国家安全保障局(NSA)は改めて大手通信会社と秘密裏かつ非合法の契約を結び、それを通じて大規模な通信傍受プロジェクトを続けた。

米政府の大量通信傍受作戦

GCHQの支援を受けた米軍の諜報機関(NSAの前身)はコードネーム「シャムロック」という作戦で、ウェスタンユニオンをはじめとするアメリカの大手通信会社3社と秘密契約を結び、ケーブルを通じてアメリカに送受信される全ての通信のコピーを毎日入手した。

企業は「愛国的な理由」から協力し、アメリカの国家安全保障を支援していると考えていた。

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