最新記事

ファーウェイ

中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史からそれは明らか

STATE WIRETAPS GO BACK A LONG WAY

2020年8月6日(木)14時15分
カルダー・ウォルトン(ハーバード大学ケネディ政治学大学院研究員)

シャムロックがアメリカの安全保障や政治に実際に与えた影響について、公の情報ではほとんど知られていない。NSAで長年副部長を務めたルイス・トルデラは、シャムロックは第2次大戦の初期から「誰からも大きな注意を払われずに」活動を続けたが、実際には「あまり価値を生み出さなかった」としている。だが、そうだとすれば、なぜ活動が続いたのかという疑問が湧く。

1975年に政府情報機関の非合法活動の調査のために設立された上院の情報活動調査特別委員会、通称「チャーチ委員会」はシャムロックの活動を暴き、「おそらくこれまでで最大の政府による通信傍受プログラム」と結論付けた。このことは、アメリカ国民の通信の傍受を規制する1978年の外国情報監視法(FISA)につながった。

だがシャムロックで確立された原則は生きていた。通信会社は違法と思われる場合でも、アメリカの情報当局に自ら進んで協力した。

現代のデジタル革命は、政府による情報収集の本質、範囲や規模を根本的に変え、それによって諜報の本質そのものも変わってきた。

だが情報収集のために通信会社を利用するという基本原理は、インターネット時代になった今も変わらない。情報通信という干し草の山の中にわずかに含まれる重要な情報を見つけ出すためには、国がその干し草の山を所有する必要があるからだ。

今では通信会社と秘密の合意を結ばなくても、政府の情報収集活動を支える法的な枠組みがある。NSAによる電話のメタデータ(通信記録)の一括収集プログラムは、米愛国法第215条を通じて行われた。GCHQはスノーデンに暴露されるまで、時代遅れの曖昧な法律の下で大量の情報収集を行っていた。

こうした情報収集は継続的な監視を行う「監視社会」だと批判されるが、実際にはそうでもなかった。スノーデンによる暴露後に作成された米諜報活動の透明性報告書によれば、NSAは通話やテキストメッセージに関する大量の情報を収集したものの、それが特定の人物(またはそれらしき人物)に関する具体的調査につながった例はごく一部だ。

しかし彼らの情報収集プログラムは国の安全保障には貢献してきたようだ。イギリスの独立調査では、情報収集プログラムがスパイ対策やテロ対策、麻薬対策や人身売買対策に役立ったことが明らかになった。ロシアのハッカー集団「ファンシーベア」による2015年の英総選挙介入の試みをGCHQが突き止めた(そして阻止した)きっかけも、この情報収集だったようだ。

数十億の「秘密の裏口」

国家が新たな通信プラットフォームを使ってスパイ活動を展開しているのではないかという疑惑は、中国やファーウェイに限った話ではない。

例えばカスペルスキー社のウイルス対策ソフトは、ロシアの諜報機関と関連があると考えられている。アラブ首長国連邦のメッセージアプリ「ToTok」は、同国政府の諜報活動に使われているといわれている。中国政府は、大人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を悪用していると疑われる。

【関連記事】米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」
【関連記事】アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中