コラム

米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」

2020年07月27日(月)19時05分

閉鎖命令が明らかになった7月22日のヒューストン総領事館 ADREES LATIF-REUTERS

<中国は習近平国家主席の下、2013年頃から対米スパイ活動を活発化させていた。アメリカはなぜ、今になって突然動いたのか>

7月21日にテキサス州ヒューストンの中国総領事館から煙が上がった理由を知りたければ、次の数字に注目してほしい──103、52-40、16、14万8000だ。

アメリカは中国の情報機関が知的財産を盗んだとして同領事館を72時間以内に閉鎖するよう命じた。領事館の職員たちは(そしてもちろんスパイも)米当局が建物に入る前に、機密書類を大急ぎで燃やそうとしたのだ。ますますヒートアップする21世紀の米中冷戦を象徴する出来事だ。

ただし、中国は何年も前からアメリカで精力的に情報収集活動を行ってきた。アメリカはなぜ、今になって突然動いたのか。最大の動機は11月3日の大統領選だ。トランプ大統領は大敗の危機に直面している。投票日はこの記事の執筆時点から見て103日後。間もなく数百万人の有権者が郵送での投票を開始する。

最新の世論調査によれば、トランプは民主党のバイデン前副大統領に52%-40%で後れを取り、伝統的に共和党が強いテキサス州でも負けている。アメリカの実質的な失業率(公式の数字より5ポイントほど高いとされている)は、90年前の大恐慌以来最悪の約16%。失業給付の増額措置は7月末に期限切れとなり、国民の3分の1は家賃の支払いができなくなる。新型コロナウイルスによる死者は14万8000人に達し、最近は毎日1000人以上増え続けている。

このパンデミック(世界的大流行)に対する大統領の反応は、無視することだった。トランプは「いずれウイルスは消え去る」と語り、予定どおり秋に学校での対面授業を再開しようとした。

もちろん、ウイルスはトランプの予言どおりにはならず、米政府の致命的な危機管理上の不手際を白日の下にさらけ出した。そこでトランプは、中国に責任を転嫁しようとした。こうして中国はヒューストンから追い出されることになり、スパイ活動の証拠書類を燃やしたというわけだ。

スパイ戦争の必然的結末

ただし、ヒューストンの中国総領事館で煙を発生させる原因となった数字は、ほかにもある──10、137、50、1200だ。

中国がスパイ行為を働いていることは明らかだ。米中両国は何十年も前から互いにスパイし合ってきたが、中国は習近平(シー・チンピン)国家主席の下、2013年頃から対米情報活動を活発化させた。

FBIのレイ長官は7月7日、中国の活動をアメリカにとって最大の脅威と位置付け、FBIは中国絡みの新たな対スパイ活動を「10時間ごとに」開始していると証言した。2000年以降、公表された中国の情報活動は少なくとも137件。兵器関連または機密扱いの技術の窃盗が絡んだ事例は少なくとも50件ある。

【関連記事】米中衝突を誘発する「7つの火種」とは
【関連記事】中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消えていった

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

世界貿易、AI導入で40%近く増加も 格差拡大のリ

ビジネス

インドネシア中銀、予想外の利下げ 独立性に懸念

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48

ワールド

南アCPI、8月は予想外に減速 金融政策「微妙な判
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story