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日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること

WHERE DO WE GO FROM HERE?

2020年7月15日(水)17時05分
ウェスリー・ラウリー(ジャーナリスト、元ワシントン・ポスト警察司法担当記者)

警官に殺される黒人の数

この6年間、私は警察による暴力と、それに立ち向かう若い黒人活動家たちを取材してきた。2014年8月にはミズーリ州ファーガソンで黒人のマイケル・ブラウン(18)が警察官に射殺される事件があり、暴動が起きた。当時ワシントン・ポスト紙の記者だった私は現地で取材中、地元の警察に逮捕された。

私に批判的な人々は(その一部は同業者だ)、逮捕されたことで私は「ストーリーの一部」になったのだから取材から外れるべきだと主張した。しかし私は絶対に取材を続けようと決心した。あれから5年、私は警察の説明責任を問い、警察によって被害を被った人々を取材することをライフワークにしてきた。

私は2015年にワシントン・ポストの同僚たちと「フェイタル・フォース(殺しの部隊)」というプロジェクトを立ち上げた。警官による射殺事件の取材記録をまとめたデータベース作りだ。ファーガソンで取材したBLM運動のメンバーには、黒人が警官に殺されるのは毎日のことだと言われた。しかし警察当局や警官組合に取材すると、警官が市民を死に至らしめる事例はまれであり、個々の事例には相応の理由があるという答えが返ってくる。双方の主張はかみ合わない。

背景にあるのは構造的な欠陥なのか、それとも偶発的な出来事がたまたま続いているにすぎないのか。人種と警官の行動をめぐる論争が全米に広がっているにもかかわらず、驚くべきことに、議論の糸口となる信頼性の高い全国的なデータがない。警官が死亡させた市民の数も、誰がどんな状況で死に至ったのかも分からないのだ。そこでワシントン・ポストは、警官の発砲による射殺事件を可能な限り追跡することにした。地元メディアの報道を基に、追加の取材もした。

それからの5年間で、私たちは警官に殺された犠牲者約5000人分(だいたい1日に3人の計算だ)の事例を記録した。それで分かった。黒人は、白人の少なくとも2倍は警官の手で命を奪われている。

黒人に対する警官の態度に問題があることは、今なら誰もが気付いている。では、その問題の根はどれほど深く、どこまで広がっているのだろうか。黒人の活動家なら、こう答えるだろう。アメリカの警察は奴隷を監視する必要から生まれたに等しく、そこには人種差別が構造的に組み込まれているのだと。

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BLM運動の発起人の1人であるパトリッセ・カラーズ FRANCINE ORR-LOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES

そうだとして、私たちはこれからどこへ向かえばいいのか。ジャーナリストの役割は、自分の答えを出すことではなく、どんな問題が起き、どこまで広がっているかを詳しく伝えることにある。私はそう思う。だから、以下でも黒人の活動家や指導者、そして街頭デモで出会った人たちの声を紹介する。

「改革なら、さんざんやってきた」と言うのはミネアポリス市議のジェレマイア・エリソンだ。エリソンは現在、市警の解体を訴えている。

「自分の、そして自分の暮らす地区の経験から言うと警察の役割は暴力そのものだ」と言うのはBLM運動の創設に加わったパトリッセ・カラーズ。「この30年間、警官による巡回と逮捕には多大な資源が注ぎ込まれた。だが困窮している地元住民の支援活動には全くお金が来ない」

【関連記事】コロナ禍なのにではなく、コロナ禍だからBlack Lives Matter運動は広がった

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