最新記事

中国共産党

香港「一国二制度」の約束をさっさと反故にした、中国共産党の世界観

CHINA'S STRATEGIC MISTAKES

2020年7月15日(水)16時45分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

習近平が強気な戦略を見直すことはあるのか Jason Lee-REUTERS

<血なまぐさい内戦と権力闘争を経て建国を成し遂げた中国共産党にとって、世界は弱肉強食のジャングル>

最近の中国の政策の一部は、現実的な面で理にかなっていないようにみえる。香港に国家安全維持法を導入したのは、その最たる例だ。

6月末に全国人民代表会議が、まともな審議もせずに「香港国家安全維持法」を成立させたことにより、1997年の香港返還時に確立された「一国二制度」は、事実上息の根を止められた。そして中国と欧米諸国の間の緊張は急速に高まっている。

世界の金融センターとしての香港の地位は、今や重大な危機にある。一方、住民は自由を守るために徹底的に抵抗する決意だから、香港の治安は一段と不安定化するだろう。さらに中国に圧力をかけるために、アメリカとヨーロッパ諸国は久しぶりに足並みをそろえようとしている。つまり長期的に見て、同法の成立は、中国に悲惨な結果をもたらす可能性が高い。

なぜ中国は、こんなに大きな政策ミスを犯したのか。

習近平(シー・チンピン)国家主席への行き過ぎた権力集中が原因だ――。そう考えたくなるのは当然だ。確かに強権的な指導者の下では、政策論争が妨げられるため、お粗末な決定が下されやすい。

だが、この説明は、中国が自滅的な政策を取るもっと重要な理由を見落としている。それは中国共産党のマインドセットだ。

中国共産党にとって、世界は弱肉強食のジャングルだ。1921年の結党以来、国民党政権との血なまぐさい内戦と、激しい権力闘争を経て、中華人民共和国の成立にこぎ着けた彼らにとって、世の中はホッブズが言うところの「万人の万人に対する闘争」が支配する場所だ。そこで生き残るには、むきだしのパワーを振りかざすしかない。

もし、パワーバランスが自らに不利な状態にあるなら、狡猾かつ用心深く切り抜けなくてはならない。70年代末から90年代にかけて実権を握った鄧小平(トン・シアオピン)が唱えた外交政策「韜光養晦(とうこうようかい:目立たないようにして、力を付ける時間を稼げ)」は、この戦略的現実主義をうまく表現している。

84年の英中共同声明で、中国は97年の香港返還後も50年間、香港の自治を認めると約束した。だがこれも国際法を尊重したからではなく、自分たちが力を付けるまで下手に出たにすぎない。だから世界のパワーバランスが自らに有利に傾いてくると、さっさと84年の約束をほごにした。

中国共産党の世界観は、貪欲な利益追求に対する皮肉な信頼にも彩られている。欧米諸国は、資本主義の中で利益追求に隷従しているにすぎず、いくら人権や民主主義を重視すると言っても、中国市場へのアクセスを失うことには耐えられないはずだ。よその資本主義国が中国市場で利益を得続けていたら、なおさらだ――。

<関連記事:香港国家安全法という中国の暴挙を罰するアメリカの「最終兵器」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルの中東地域所有権巡る米大使発言、中東・イ

ワールド

違法判決の米関税、24日に徴収停止 米税関当局発表

ワールド

中国、米最高裁関税判決の影響評価中 「一方的措置の

ワールド

金正恩氏を総書記に再任、朝鮮労働党大会 「核戦力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中小企業の「静かな抵抗」
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中