最新記事

台湾

【香港危機】台湾の蔡英文がアジアの民主主義を救う

Why Taiwan’s Assistance to Hong Kong Matters

2020年7月3日(金)17時00分
シーナ・チェストナット・グリーテンス、アラム・ハー

近年では、自分のことを(「中国人」でも「中国人と台湾人の両方」でもなく)「台湾人」だと考える市民の割合が、これまでで最も多くなっている。この認識は党派を超えたものだが、特に野党として長年民主化を求めてきた民主進歩党(民進党)支持者の間で強かった。その民進党の主席(党首)である蔡英文が現在の台湾総統で、彼女の今回の決定は、台湾は「民主主義国家である」というアイデンティティーを改めて揺るぎないものにしている。

一方の韓国は、古いアイデンティティーと新しいアイデンティティーの間で足踏み状態にある。韓国では出生率の大幅な低下から、移民や外国人労働者がこれまで以上に必要とされるようになっており、多くの意味で「多文化社会」に移行しつつある。だが北朝鮮市民に関しては「同一民族」の原則を頑なに守っている。北朝鮮市民は「元来(韓国の)市民権を持っている」と見なされることが多く、再定住に際しては、ほかの国からの移民どころか朝鮮系中国人(朝鮮族)でも受けられない優遇措置を受けている。

脱北者のための再定住施設は「ハナ院(ハナは「統一」「結束」の意)」と呼ばれている。朝鮮は同じ民族からなる単一国家であり、朝鮮戦争の悲劇によって一時的に2つの統治システムに分かれているだけだという考え方だ。

「同族意識」が阻む韓国の進化

朝鮮は20世紀前半に日本の統治下にあった時期を乗り越えた経験もあり、民族的な同類意識は変わることなくアイデンティティーの一部として維持されてきた。だが韓国の少子高齢化の現実を考えると、北朝鮮市民を民族的な例外として扱う今のやり方は、韓国の国家としてのアイデンティティーの進化を阻んでいる。

北朝鮮市民を同一民族として例外扱いする韓国のやり方は、彼らが支援したいと考えている脱北者コミュニティーにも矛盾したメッセージを発信している。多くの脱北者が、「民族的な結束」という論調が必ずしも、自分たちが韓国社会に受け入れられることを意味する訳ではないと感じている。韓国で差別や失業などの問題に直面して幻滅する脱北者は多い。

外交政策への影響もある。北朝鮮に対する韓国の民族主義的なアプローチは、朝鮮半島問題に関する責任を伴い、また「自分の面倒は自分で見る」という韓国の行動原則を表している。「国民の和解」を目指すことが最終目標だというならば、このアプローチは妥当なものだと言える。だがこのアプローチは一方で、脱北者の問題をより国際的な人権保護の問題に発展させるのを阻み、韓国が民主化推進の取り組みに関して、周辺地域や国際社会でより幅広いリーダーシップを発揮する能力を制限することにもなる。

対照的に、香港の問題に対する台湾のリベラルな主張は、インド太平洋地域を「世界秩序についての自由なビジョンと抑圧的なビジョンが競い合っている」と評するアメリカの最新の国家安全保障戦略に沿うものであり、台湾を、香港の民主主義の保護を支持する国際社会の一員に組み込むものだ。この一見したところ小さな違いが、民主主義と人権を求める闘いのアジアの、ひいては世界の「新たな前線」としての台湾の立場を確立することにつながるのだ。

From Foreign Policy Magazine

【話題の記事】
台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死
中国は「第三次大戦を準備している」
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

20200707issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融政策の具体的手法、日銀に委ねられるべき=片山財

ビジネス

全国コアCPI、10月は+3.0%に加速 自動車保

ビジネス

貿易収支、10月は2318億円の赤字 市場予想より

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株安の流れ引き継ぐ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中