最新記事

アメリカ危機

米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた

U.S. Allies Look on in Dismay While U.S. Rivals Rejoice

2020年6月5日(金)17時40分
キース・ジョンソン

だが過去1週間の混乱で、アメリカが「偽善」のそしりを免れなくなったのは確かだ。アメリカの外交官たちは今後、中国が香港のデモ隊を弾圧しても、イランが国民に暴力を使っても、それを非難しにくくなる。アメリカはこれまで、中国が31年前の天安門事件で民主化を求めるデモ隊を武力鎮圧したことを声高に非難してきたが、今後はそれも説得力を失うだろう。

ドイツをはじめヨーロッパの多くの国々がアメリカに幻滅したのは、この1週間の出来事についてだけではない。NATO批判、親しい同盟国への関税引き上げ、世界貿易機関(WTO)や世界保健機関(WHO)、パリ協定といった重要な国際的枠組みからの脱退など、トランプ政権の身勝手な行動を何度も目の当たりにして、アメリカに対するヨーロッパ諸国の信頼は既に大きく揺らいでいた。

フランスは、もっと長年にわたってアメリカに失望感を抱いてきた。2003年、フランスとアメリカはイラク戦争をめぐって激しく対立。アメリカが対テロ作戦の中で捕虜を虐待した問題で、両国の関係はさらに悪化した。バラク・オバマ前政権時代は関係改善の期待が高まったが、シリア内戦にアメリカが軍事介入しなかったことでフランスの政治家たちは大きく失望した。そこにトランプが登場した。

力を失い続けてきたアメリカ

「ジョージ・W・ブッシュ時代、オバマ時代、そしてトランプが大統領になってからも、アメリカは奇妙な行動を取ってきた。全ては長年の積み重ねだ」と、フランス国際関係研究所の北米専門家であるローレンス・ナードンは言う。「私たちヨーロッパはずっと前から、アメリカに失望してきた」

確かに、国内の混乱がアメリカの世界的な地位を脅かしたのは、今回が初めてではない。20世紀前半に移民制限法が制定されると、(移民としての入国を禁止された)アジア諸国に対するアメリカの影響力が損なわれた。人種的な分断は常に敵に「付け入る隙」を与え、冷戦時代には旧ソ連と中国がアメリカの「偽善」を突くことでアメリカのソフトパワーを切り崩した。1968年の暗殺(マーティン・ルーサー・キング牧師とロバート・ケネディ上院議員)や暴動や反戦デモは、世界の模範となる「丘の上の街」としてのアメリカの輝きを曇らせた。2008年から2009年の金融危機は、中国式の国家資本主義に対抗する力が弱体化した。

だがこれまでと今の大きな違いは、分断を克服し、世界にアメリカの違う一面を見せることができるはずの指導力が欠けていることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中