最新記事

感染症対策

下水が新型コロナ早期警戒システムになる?

2020年5月28日(木)18時50分
松岡由希子

下水のモニタリングで、新型コロナウイルス感染症の流行を事前に検知できる...... Avatar_023-iStock

<下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度を調べることで、感染者数や入院患者数の変化を事前に予測できる可能性がある......>

下水のモニタリングによって、新型コロナウイルス感染症の発生の初期兆候を検知できる可能性があることが明らかとなった。

下水汚泥の新型コロナのRNA濃度は、時間差で感染流行と高い相関

米イェール大学の研究チームは、2020年3月19日から5月1日まで、人口約20万人の下水を処理する米コネチカット州ニューヘイブンの下水処理場で下水汚泥試料を毎日採取し、新型コロナウイルスのRNAを抽出。下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度と、この地域で確認された新型コロナウイルスの感染者数や入院患者数とを比較した。

メドアーカイブ」で5月22日に公開された未査読の研究論文によると、下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度は、時間差があったものの、新型コロナウイルス感染症の流行曲線や地域の医療機関の入院患者数と高い相関が認められた。

New-Haven1.jpg

COVID-19の新規陽性者数(黒線)と、一次汚泥1mLあたりのウイルスRNAの量(赤線)

新型コロナウイルスのRNAの濃度は、新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数に変動が起こる7日前、入院患者数が変動する3日前に増減がみられたという。新型コロナウイルスの感染者は、症状が現れるまで感染の有無を検査しないため、このような時間差が生じるものと考えられている。

感染流行を予測し、予防策の強化や緩和をタイムリーに判断できる

下水汚泥では個人が特定できないため、新型コロナウイルスの感染者の特定や接触者の追跡調査には、従来と同様、臨床検体による検査が不可欠だ。しかしながら、下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNA濃度のモニタリングによって、新型コロナウイルス感染症の流行を事前に予測し、地域の検査体制や医療体制の整備につなげたり、感染予防策の強化や緩和をタイムリーに実施しやすくなる可能性はある。

研究論文では「とりわけ検査体制が脆弱な発展途上国では、下水や汚泥に基づくサーベイランス(監視)が役に立つだろう」と指摘している。

下水を用いた新型コロナ感染状況の調査は各地で行われている

下水を用いた新型コロナウイルス感染症のサーベイランスにまつわる研究は、イェール大学以外でもすすめられている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームでは、3月18日から25日までマサチューセッツ州の下水処理場で採取した下水試料を分析し、実際の感染者数は、マサチューセッツ州で確認された陽性者数よりも多いとみられることを示した。

同様の調査は、豪クイーンズランド州や仏パリでも実施されている。

●参考記事
下水から新型コロナウイルス感染症を検知できる紙製デバイスが開発される
.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏「良識働けば協議で戦争終結」、 交渉不調

ワールド

米ポーランド首脳会談、ウクライナ情勢など巡り協議へ

ビジネス

米労働者の家計不安増大、8割近くが経済に懸念=米銀

ワールド

訂正-プーチン氏への「メッセージなし」、決定を待つ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中