最新記事

ロックダウン

ノーベル賞受賞者が異を唱える──政府は、疫学者の予測におびえて都市封鎖した

2020年5月26日(火)18時30分
松岡由希子

高齢者の保護に焦点を当てた「スマートなロックダウン」政策を提唱していた REUTERS/Stephen Lam

<ノーベル化学賞を受賞した生物物理学者マイケル・レヴィッド教授は、「実際の疫学を誤ってモデル化している」と英国での都市封鎖に異を唱えている......>

英国では、国民や企業の活動を強制的に制限する「都市封鎖(ロックダウン)」を2020年3月18日から実施しているが、新型コロナウイルスの感染はいまだに広がっており、5月25日時点の感染者数は約26万人、死亡者数は約3万7000人にのぼっている。

「都市封鎖は、むしろ多くの死亡者を出す結果を招いている」

英国政府に都市封鎖の実施を進言したのは、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の疫学者ニール・ファーガソン教授だといわれている。ファーガソン教授は、感染症数理モデルにより「英国で都市封鎖を実施しなければ、新型コロナウイルス感染症により50万人が命を失う」との予測を示していた。

2013年にノーベル化学賞を受賞した米スタンフォード大学の生物物理学者マイケル・レヴィッド教授は、英紙テレグラフで「都市封鎖は、国民の生命を守るよりもむしろ多くの死亡者を出す結果を招いている」と英国での都市封鎖に異を唱え、「専門家が統計を誤って読み解き、新型コロナウイルス感染症の実際の疫学を誤ってモデル化している」と指摘している。

レヴィッド教授は、疫学は専門外であるものの、20年1月に中国で新型コロナウイルスの感染が拡大した際、武漢市の感染者数と死亡者数のデータを独自に分析し、「新型コロナウイルス感染症による死亡者数は3250名程度にとどまる」との精緻な予測に成功した。

レヴィッド教授の分析では、新型コロナウイルス感染症が発生すると、都市封鎖など、感染拡大防止のための措置が講じられるか否かにかかわらず、「2週間にわたって指数関数的に感染者数と死亡者数が増加したのち、増加ペースが鈍化する」という数理パターンが認められたそうだ。レヴィッド教授は、このような分析から、「ファーガソン教授は、コロナウイルス感染症による死亡者数を10倍から12倍多く見積もっている」との見解を示している。

「英国政府は、ファーガソン教授の予測におびえて都市封鎖を実施した」

英投資銀行JPモルガンのストラテジストのマルコ・コラノヴィッチ博士も、英タブロイド紙デイリー・メールで「英国政府は、ファーガソン教授の予測におびえて都市封鎖を実施したが、その効果は極めて限定的であった」と指摘している。

JPモルガンが5月20日に発表したレポートでは、都市封鎖を実施した多くの国において、都市封鎖を解除した後、一日あたりの新規感染者数が減少している点を挙げ、「新型コロナウイルスには、感染拡大防止のための措置とは無関係の独自の動力学があるのかもしれない」と考察している。

英国政府では、5月11日、都市封鎖を3段階にわたって緩和していくロードマップを公表し、これまでに外出制限の一部を緩和しているが、全面的な解除までにはまだ相応の時間がかかりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英アンドルー元王子を逮捕 エプスタイン氏巡る不正行

ビジネス

ラガルドECB総裁、職務に専念と同僚らに伝達 即時

ビジネス

アイルランドの法人税収、多国籍企業3社が約半分占め

ワールド

トルコの和平工程表承認、PKK関係者が「重要な一歩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中