最新記事

北朝鮮

「金正恩死亡説」は眉に唾して聞け

The Brief Death of Kim Jong-Un

2020年5月14日(木)17時40分
アイザック・ストーン・フィッシュ(アジア・ソサエティー上級研究員)

magw200514_KJU2.jpg

北朝鮮メディアが5月2日に配信した、前日に肥料工場を視察したとされる金正恩の映像 KCNA-REUTERS

国民目線で見れば、あの国は間違いなく破綻国家だ。1990年代半ばの食糧危機では多数が餓死した。適切な医療インフラを欠き、頭痛の患者に覚醒剤が処方されたりもした。それでも1948年の建国以来、金王朝は揺るがずにいる。一族は3代にわたり権力を維持し、今や世界最長級の一党支配体制を築いている。脱北者の証言でも分かるが、あの国の人々は今も本気で「国父」金日成を崇拝しているらしい。

「北朝鮮は不合理でとっぴな行動を取りがちだという見解は幻想にすぎない」と、在韓ロシア人歴史家のアンドレイ・ランコフは著書『北朝鮮の核心』に書いている。歴代の指導者は「狂人でも狂信的な人物でもなく、むしろ徹底して効率的であり、冷酷なまでに打算的だ。今の時代で最もマキャベリ的な策士と言えるかもしれない」。

なのになぜ、金正恩の安否が「シュレーディンガーのネコ」状態なのか。彼が健康であるのなら現状は維持されるとみていい。韓国国家情報院を率いる徐薫(ソ・フン)院長が言うように、金正恩が姿を消したのは新型コロナの感染を防ぐためだったのだろう。

しかし、本当に健康を害している可能性もある。金正恩は5月1日に姿を見せたとされるが、その映像が本物という証拠はなく、以前に撮影されたものかもしれない。もしも正恩が再起不能なら、後継者は妹の金与正(キム・ヨジョン)だろう。

与正は第2代最高指導者・金正日(キム・ジョンイル)の末っ子だ。血統を重んじるあの国では正統な権力継承者だし、その任にふさわしい経歴も備えている。一部には、現に彼女が金正恩のイメージ戦略を担い、外交でも内政でも彼を補佐しているとの見方がある。ただし彼女は政権の「顔」にすぎず、実権は崔竜海(チェ・リョンヘ)らの軍幹部が握っているとの見方もある。

いずれにせよ、もしも現状維持ならばミサイル発射や核実験の挑発が今後も続くことになる。危ない橋に見えるかもしれないが、実はアメリカも中国も北朝鮮の体制崩壊を望んでいない。それを承知の上の挑発だ。

中国は14の国と国境を接しているが、今のところ難民流入の危機を免れている。だが北朝鮮が崩壊すれば、国境を越えて何十万もの人々が中国側に逃げてくるだろう。そうなれば、せっかく抑え込んだ新型ウイルスが再び猛威を振るう可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マネーストックM3、1月は1.0%増 伸び率は前月

ワールド

豪シドニーでデモ参加者が警察と衝突、イスラエル大統

ワールド

イスラエル軍、ガザで武装勢力4人殺害 農民も射殺

ワールド

エア・カナダがキューバ便運休、ジェット燃料の入手難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    【銘柄】なぜ?「サイゼリヤ」の株価が上場来高値...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中