最新記事

ワクチン

コロナ感染拡大は、ポリオや麻疹のワクチン予防接種に深刻な影響

2020年5月13日(水)18時20分
松岡由希子

ポリオワクチン予防接種を受けるパキスタンの少年、2016年 REUTERS/Akhtar Soomro

<WHOは、新型コロナウイルス感染予防策として人と人との物理的距離を確保する必要があることから、大規模なワクチン予防接種キャンペーンを停止するよう指示している......>

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、ポリオ(急性灰白髄炎)や麻疹などのワクチンの予防接種にも深刻な影響をもたらしている。ワクチンで予防可能な疾患(VPD)による死亡者数は世界全体で年間150万人と推計されるが、ワクチンの予防接種が停止もしくは延期されることにより、今後、世界各地で、このような疾患が流行するおそれも懸念されている。

WHOはワクチン予防接種キャンペーンの停止を指示

世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染予防策として人と人との物理的距離を確保する必要があることから、2020年3月26日付のガイドラインで、大規模なワクチン予防接種キャンペーンを停止するよう指示した。

WHOやアメリカ疾病予防管理センター(CDC)、国連児童基金(UNICEF)らで構成されるイニシアチブ「世界ポリオ撲滅推進活動(GPEI)」では、対象国に対して、ポリオワクチン予防接種キャンペーンを6月1日以降に延期し、新型コロナウイルス感染症の発生状況をふまえたうえで実施の是非を再評価するよう助言している。

GPEIを率いるWHOのマイケル・ザフラン博士は、米誌サイエンスで、「2つの酷い状況にはまり込んでいる」と述べ、ポリオと新型コロナウイルスとのジレンマに陥っている現状を認めたうえで、「選択の余地はない。ポリオワクチン予防接種キャンペーンによって新型コロナウイルスの感染拡大につながってはならない」と説いている。

新型コロナウイルスが終息後、放置された別の疾病が脅威に

野生株ポリオウイルス(WPV)が今もなお発生しているパキスタンでは、4月以降、新型コロナウイルスの感染が拡大し、感染者数が5月12日時点で3万2081人にのぼる一方で、ポリオワクチン予防接種キャンペーンの停止に対する懸念も広がっている。

パキスタンにおける2019年の野生株ポリオウイルスの発生件数は147件で、2020年もこれまでに43件が確認されている。パキスタンでは、5歳未満の子どもを対象としてポリオワクチン予防接種キャンペーンを定期的に実施。

新型コロナウイルスが終息後、放置された別の疾病が脅威に

2020年2月のキャンペーンでは、4000万人の子どもがポリオワクチンを接種したが、独メディアのドイチェ・ヴェレ(DW)によると、4月だけで4000万人以上の子どもがポリオワクチンの定期予防接種の機会を失ったという。

パキスタンのように、人口が急速に増加し、医療体制が脆弱な国では、ワクチン接種をはじめとする疾病予防策が不可欠だ。パキスタン医師会(PMA)の事務総長カイサル・サジャド医師は「パキスタンでは、新型コロナウイルス感染症が終息したあと、それまで放置してきた別の疾病の脅威が高まり、状況がより悪化してしまうかもしれない」と懸念を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中