最新記事

新型コロナウイルス

緩むとこうなる?制限緩和を試みた韓国にコロナのしっぺ返し

South Korea Tries a Tentative Reopening—and Pays for It

2020年5月12日(火)19時38分
モーテン・ソンダーガード・ラーセン

繁華街に人が戻る時、感染は再び拡大する?(ソウル、4月22日) Heo Ran-REUTERS

<100人を超える集団感染。それでも、対策は全体として功を奏している、と専門家は自信を見せるが>

「アイスアメリカーノの人は手を挙げて?」──一人の男性が周りの同僚たちに尋ねると、10人が手を挙げた。男性はカウンターに行ってアメリカーノを注文し、その間、同僚たちは近くで楽しそうに立ち話をしていた――。韓国で外出規制が緩和されて、多くの人が職場に戻った5月6日。久しぶりに会った同僚と話が尽きないのも当然だろう。

積極的な対策で新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めることに成功したと世界から称賛されている韓国では、この日から外出や集会の禁止措置が正式に緩和された。ソウル市庁舎の近くで働いている前述の男性たちは、これで安心して12人で連れ立って近くのコーヒー店を訪れることができるようになったと上機嫌だった。グループの中の管理職風の男性は、若い同僚に「500ウォン(約50セント)の貸しだぞ」と冗談めかして言い、彼に近づいていって腹を殴る真似をした。

「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)」など過去の話のように思えた。国の新たな方針としては「生活防疫」が掲げられた。閉鎖されていた店舗や事業所は再開、学校も近いうちに再開する一方で、市民はマスクを着用したり互いに少し距離を空けたりするなど、必要な感染防止策を講じた上で日常生活を送ることになる。もちろん、体調が悪い人は自宅にとどまらなければならない。

繁華街から広まった感染に怒り

だがその後、状況は一変。韓国の「勝利」は一瞬で終わった。規制緩和を控えた週末、新型コロナウイルスに感染している29歳の男性が、バーやナイトクラブがひしめくソウルの繁華街・梨泰院地区を訪れたのだ。この男性を中心に発生した集団感染で、12日までに少なくとも102人の感染が確認され、1日あたりの感染者数も1カ月ぶりの高い水準を記録した。問題の29歳の男性は複数のナイトクラブを訪れており、当局は約1500人がウイルスにさらされた可能性があると推定している。

ソウル市は感染者数が増えるとすぐに、ナイトクラブやバーに事実上の営業停止命令を出した。また男性と同じ週末に梨泰院地区にいた全ての人に対して、症状の有無にかかわらず検査を受けるよう要請した。韓国疾病予防管理局によれば、11日には新たに感染が確認された35人のうち29人は感染経路不明の市中感染だった。感染者が再び急増していることに、韓国のネット上では多くの怒りの声が上がっている。中でも集団感染の発生源がゲイバーだと報じられたことで、人々の怒りの矛先はLGBTコミュニティーに向けられている。

<参考記事>新型コロナ規制緩和の韓国、梨泰院のクラブでクラスター発生

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中