最新記事

新型コロナウイルス

コロナ危機:専門家への信頼が崩れるとき

Crisis Communication In Crisis

2020年5月5日(火)14時00分
石戸諭(ノンフィクションライター)

第2に「分かりやすい言葉で、繰り返し語ること」だ。政治家ならば、アンゲラ・メルケル独首相のメッセージが手本なる。「今はおじいさん、おばあさんに会わないようにしよう」と訴え、医療従事者だけでなく、スーパーの店員など物流を維持する無名の人々への感謝を忘れない。

「危険だと訴えるだけがクライシス・コミュニケーションではない。危機だからこそ、リーダーは具体的にできることを語り、時に人々を励まし、感謝を表明することが大事になる。要請ばかりでは動かない」と、西澤は指摘する。

翻って、日本の専門家や政治家の行動、発信はどうだろうか。政府の「専門家会議」やクラスター対策班のメンバーも個々人、あるいは有志がバラバラとツイッターで発信を始めたり、記者会見をセットしたりと「ワンボイス」にはなっていない。

「『三密』を避けろ」「人と人との接触を7〜8割減らせ」というメッセージでは、密が「二」ならばどうなのか、あるいは満足な補償も無いまま働かざるを得ない人はどうしたらいいのかという疑問がどうしても残る。

先のメールによれば、密が「一か二」なら10割避けなくてもOKということになるが、あれだけ近距離で飛沫を散らせて感染しないという保証はどこにもない。

西澤は「社会に要請するならば、自分から率先して行動するのが、危機における政治家や専門家の役割だ」と語る。

変化が必要なのは「社会」だけではない。情報の発信者でもある政治家や専門家も、だ。そこに気付けるか否かで日本の今後が決まる。そう言っても過言ではないクライシスは、確実に足元から起きている。

<本誌2020年5月5日/12日号掲載>

【参考記事】日本のコロナ対策は独特だけど、僕は希望を持ちたい(パックン)
【参考記事】ロバート キャンベル「きれいな組織図と『安定』の揺らぎ」

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米中貿易巡る懸念が緩和

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中