最新記事

日本社会

「不要不急の仕事」の発想がない日本は、危機に対して脆弱な社会

2020年4月8日(水)13時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

新型コロナは日本社会を変革する「黒船」になるのか Athit Perawongmetha-REUTERS

<日本人にとって失業は単に収入が途絶えるだけでなく、社会的な孤立を意味する>

新型コロナウイルスの感染防止のため、日本でも首都圏、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言が出され、外出自粛が呼び掛けられている。世界を見れば「不要不急の労働」を禁止する国も出てきた。南欧のスペインだ。

「不要不急の労働」という言い回しは、日本人にとっては違和感があるが、働くことをそこまで重視しないお国柄が出ているように思える。スペインの失業率は非常に高く、2ケタは普通だ。それでも国民は、明るい太陽を浴びながら談笑したり、寝転んだりしている。

しかし日本は違う。失業のダメージは大きく、「失業=人生終了」という深刻さで考えられている。職を失っても命まで取られることはないのだが、思いつめて自ら命を断ってしまう人もいる。

統計データでも、失業と自殺は強く相関している<図1>。男性は特にそうで、失業率と自殺率の時系列カーブを描くと、それがよく分かる。失業率とは、働く意欲のある労働力人口(15歳以上)のうち、職探しをしている失業者が何%いるかという指標だ。自殺率は、人口10万人あたりの自殺者数をさす。

data200408-chart01.png

戦後70年間の統計データだが、気味が悪いくらいシンクロしている。90年代半ばの経済悪化期に激増し、最近の好況期では下がっているのもそっくりだ。1953〜2018年の66年間のデータで相関係数を出すと、+0.8821にもなる。非常に強い相関で、失業率が分かれば自殺率をほぼ正確に言い当てられるレベルだ。

失業率(X)と自殺率(Y)の関係式を出すと、Y=4.184X+14.152 となる。Xの係数から、失業率が1%上がると自殺率が4.2ポイント上がることが分かる。男性人口を6000万人とすると、失業率1%アップで自殺者が2520人増える計算だ。2%アップで5000人、4%アップで1万人の自殺者が出る。寒気がするデータだが、コロナにより各地で雇い止めが起きていることを思うと、失業率2%(もしくは4%)上昇はあり得ないことではない。

失業率1%の重み。日本人にすれば「さもありなん」だが、諸外国、とくに労働禁止令を出したスペインの人にすれば理解できないかもしれない。「どうして自殺までしなければならないのか」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中