最新記事

日本社会

「不要不急の仕事」の発想がない日本は、危機に対して脆弱な社会

2020年4月8日(水)13時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

国際統計をみると、失業と自殺の関連の強さは国によって違う。日本とスペインについて、過去四半世紀のデータで失業率と自殺率の相関図を描くと、<図2>のようになる。2つの指標のマトリクスに各年のドットを配置したグラフだ。

data200408-chart02.png

両国では傾向が全く異なる。日本は失業率が上がると自殺率も上がる「正の相関」で、相関係数は+0.886にもなるが、スペインでは無相関だ。失業率は大きく揺れ動いているが、自殺率はあまり変化がない。失業が自殺に影響しない社会と言えるだろう。

予想はしていたが、ここまではっきり差が出ることに驚く。失業のダメージが全く違う。日本では外出自粛がせいぜいだが、スペインでは労働禁止まで軽々と踏み込んでいける。

世界の主要国について、同じ期間のデータで、男性の失業率と自殺率の相関関係を出してみた。算出された相関係数は以下のようになる。

▼日本(+0.886)
▼韓国(+0.145)
▼アメリカ(+0.542)
▼イギリス(+0.611)
▼ドイツ(-0.238)
▼フランス(+0.134)
▼スウェーデン(+0.087)
▼スペイン(-0.017)
▼イタリア(+0.412)

失業が最も重くのしかかるのは日本のようだ。米英とイタリアも比較的高いが、それ以外の国はほぼ無相関と言っていい。

日本で失業すれば、収入が途絶えるだけでなく、周囲から偏見を向けられ、親戚や友人とも顔を合わせづらくなり、どんどん孤立してしまう。日本では、失業は経済的にも社会的にも極めて大きな痛手となる。

しかし、そういう人が社会の多数派になれば状況は変わってくるはずだ。みんな仲良く仕事をしない(減らす)、働かない選択肢もある。新型コロナという黒船の到来によって、こうした社会への変化を迫られているのが今の日本だ。

日本社会ではこの先、人口の高齢化が進む一方で、AIも台頭してくる。これまでの価値観を払拭し、失職しても生きられるような社会を目指すべきだ。目下、日本はそれとは最も隔たった社会であることは、失業と自殺の相関係数で可視化されている。言葉を変えれば、感染症のような危機に最も弱い国だ。

週末に外出を自粛しても、平日に満員電車(密閉、密集、密接の3密空間)で通勤するようでは意味がない。「不要不急の労働を禁じる」。こういう言葉が日本の首脳の口から出るのは、いつになるだろうか。

<資料:総務省『労働力調査』
    厚労省『人口動態統計』
    ILO「ILOSTAT」
    WHO「Mortality Database」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、6月予想外の3.3万人減 前月も

ワールド

EU、温室効果ガス40年に90%削減を提案 クレジ

ビジネス

物価下振れリスク、ECBは支援的な政策スタンスを=

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中