最新記事

ドイツ

メルケル首相のスピーチは世界から賞賛されたが、州財務相が自殺するなど混乱も続く

2020年4月1日(水)16時30分
モーゲンスタン陽子

真摯なスピーチは賞賛されたが...... Michael Kappeler/Pool via Reuters

<メルケル首相の真摯なスピーチは全世界で賞賛され、一時的に新感染者数が激減したが再び増加し、ヘッセン州財務相が自殺するなど、ドイツでも混乱が続いている......>

3月中旬から下旬にかけては、メルケル首相のスピーチが世界中で評価され、その翌日には首相の感染が疑われ自己隔離(すぐに陰性判断、30日の3度目のテストも陰性だった)、そしてロックダウンと、非常にめまぐるしい10 日間だった。ドイツおよびヨーロッパの対コロナ対策の細かな状況をまとめた。

「ジャーマニー・ファースト」ではない

ドイツでは24日より徐々に他国の患者の受け入れが始まっている。軍用機などを用いて、最も深刻な被害を受けている北イタリアのロンバルディア地方からのほか、フランスやスイスなどからも受け入れている。ドイツ国内の病院の現状を照らし合わせた上での受け入れとなる。

EUでは早くから加盟国内での物資の共有が提案されている。人工呼吸器生産の世界的大手であるリューベックのドレーガーヴェルク社はドイツ政府から1万台の生産を請け負っているが、さらにオーストリアのクルツ首相や、オランダ国王からも電話を受けた。記録的な受注量のため希望の台数を提供することはできないかもしれないが、社として「ジャーマニー・ファースト」の考え方は存在しないという

消毒液が不足するなか、ドイツの国民的リキュールであるイェーガーマイスターはアルコール5万リットルを消毒液として提供。他方、同じく入手困難になっているマスクなどは盗難も多く、24日にはドイツに送られるはずのマスク600万枚がケニアの空港で紛失される事件もあった。

フィリピン人看護師を迎え入れようとして問題に

医療施設での人手不足も深刻だ。現場のサポートのため、150の医療施設からなるヘッセン病院協会が看護師75名を迎え入れる許可をフィリピン政府から得たことが20日に発表されると、「フィリピン人看護師は祖国でこそ必要とされている」と、ロックダウン中のフィリピンで多くの批判の声があがった。独外務省は就労ビザの発行などを急いでいるようだが、マニラで出国禁止令も敷かれた今、計画にどのような影響が出るかは不明だ。

他州より一足早く21日0時から外出禁止令が出されたバイエルン州は30日、外出禁止を4月19日まで延期すると発表。3月末は晴天が続き、待望の春を謳歌したい人々が公園などに一斉に繰り出してしまったことも原因の1つのようだ。

バイエルン州の独断は一部で批判も浴びた。20日のメルケル首相の真摯なスピーチは全世界で賞賛されたが、それは、旧東ドイツ出身であり、移動の自由や民主主義を尊重する彼女の、外出禁止令への躊躇が伝わってきたからだ。外出禁止令が出されて以来、バイエルン州では一時的に新感染者数が激減したが、その後はまた増えている。また、外出禁止が長引くと、体だけでなく心の健康のほうも心配になってくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ステフィン・カリー、嘘みたいなロングシュート成功…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中