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感染症対策

パンデミックの拡大局面変えるか 新型コロナウイルス抗体検査に希望の光

2020年3月31日(火)09時22分

抗体検査は「非常に魅力的」

ロックダウン(都市封鎖)により戦線離脱を強いられたその他の勤労者も職場に戻り、米国経済が切実に必要としている追い風を与えられる可能性が出てくる。大流行(パンデミック)が製造業を直撃するなかで、米国の失業給付申請件数は急増し、企業活動は記録的な水準で低迷している。

テネシー州にあるバンダービルト大学医科大学院のウィリアム・シャフナー教授(感染症学)は、企業、学校、プロスポーツチームはこうした検査に殺到するだろう、と言う。また、広範囲の検査サンプルに基づいて高いレベルの免疫が確認できれば、州知事や市長は自信を持って、活動制限を解除できるようになる、と同教授は言う。

「コスト効率が高く、入手しやすく簡単に使えれば、こうした検査キットは非常に魅力的になるだろう」

だが、カナダのトロントにあるサイナイ・ヘルス・システムの微生物研究者、トニー・マッズーリ氏は警鐘を鳴らす。ある人が非常に大量のウイルスに再曝露する場合、抗体が十分な防御になりうるかは不確実だという。たとえば緊急治療室、集中治療室といった場所では、そうした事態が起きかねない。

また同氏は、職場復帰や通常の生活に戻るタイミングも問題だと指摘する。人によっては、ウイルスに対する抗体を持っており、本人の症状は軽くなっていたとしても、まだ他人に感染させる恐れがある。マッズーリ氏によれば、患者の身体が抗体を作り始めるのはまだ病気が残っている段階であり、回復してからも数日間はウィルスを拡散し続ける。

そこでマッズーリ氏は、こうした職場復帰などを決める材料として抗体検査を使うことは「やや時期尚早」だろうと言う。「(抗体が)実際にウィルスへの防御となり、仕事に行くのも地下鉄に乗るのも何でもOKになる(略)ことが期待される。だがそこには何の保証もない」

一方、ミネソタ州ロチェスターのメイヨー・クリニックでは、研究者らが臨床試験を開始しようとしている。この試験では、陽性と診断された患者がその時点で血液を採取され、15─20日後に患者の自宅でもう一度それを繰り返す。

この臨床試験の目的は、新型コロナに感染した患者で「セロコンバージョン」、抗体ができたことを血液検査で確認できるようになるタイミングを示すことだ。この情報は、抗体検査を実施する最適の時期を判断するうえで有用であろう。

メイヨー・クリニックの感染症血清学研究所のエリツァ・シール所長は、「偽陽性のリスクがあるから、早すぎるタイミングで抗体検査をやることは望ましくない」と話す。

メイヨーでは、中国の2社を含む複数の企業が開発した抗体検査の性能を評価中である。

米疾病予防管理センター(CDC)は、独自の抗体検査の開発に取り組んでいると述べているが、いつまでにという目標は示していない。CDCは大規模な研究を進めているという。CDCやその他の研究機関にとって課題となっているのは、抗体検査の結果を検証するために、すでに感染した人から十分な数の血液サンプルを集めることである。

今回の新型コロナウィルスの流行に際して、CDCは州・地方自治体の研究機関に欠陥ある診断検査を送付し、その改善に何週間も要したことで、強い批判を浴びた。連邦政府は今も診断検査の能力を拡大しようと努力している。

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