最新記事

感染症対策

パンデミックの拡大局面変えるか 新型コロナウイルス抗体検査に希望の光

2020年3月31日(火)09時22分

昼夜を問わず何千人もの新型コロナウイルス検査が米国で進む中、新しい血液検査が、このウイルスへの免疫を持つ人を発見できるチャンスをもたらそうとしている。写真は3月17日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのサラエボで撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

昼夜を問わず何千人もの新型コロナウイルス検査が米国で進む中、新しい血液検査が、このウイルスへの免疫を持つ人を発見できるチャンスをもたらそうとしている。感染を封じ込め、経済を正常な状態に戻すための闘いにおいて、これが局面を大きく変える可能性を秘めている。

複数の学術研究機関、医療関係企業が、こうした血液検査の開発を急いでいる。軽症・無症状の感染者が持つ抗体を迅速に特定できる。現在行われているような診断検査、つまり感染を確認するために鼻を綿棒でぬぐって検体を採取する、なかなか受けられない場合もある手法とは異なるものだ。

ニューヨーク市にあるマウント・サイナイ・アイカーン医科大学のフロリアン・クラマー教授(ワクチン学)は、「最終的には、こうした抗体検査が、誰がこの国を正常な状態に戻せるのかを突き止めるのに貢献するかもしれない」と語る。「いち早く通常の生活に戻り、すべてを再スタートさせられるのは、免疫を持った人だろう」

クラマー教授を中心とする研究者らは、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」に関する米国発の抗体検査の1つをすでに開発した。教授の研究室は、検査薬の主要成分を他の機関に配布し、検査手順を共有することに忙殺されているという。

教授は今週、患者から得られた検体の検査を始められるよう、研究成果を自大学の臨床研究所に持ち込んでいる。

抗体検査は、診断検査が当初直面したような官僚主義的なハードルに邪魔されることはないだろう。米食品医薬品局(FDA)は先月ルールを緩和し、体液を対象とする検査は、FDAにおる完全な検証・承認を経ずに商品化可能になっている。

カリフォルニア州のバイオメリカや韓国の検査機器メーカー、スゲンテック<253840.KQ>など、すでにいくつかの民間企業は、新型コロナの抗体を検出する血液検査キットを米国外で販売している。

バイオメリカによれば、同社の検査キットの販売価格は10ドル以下で、すでに欧州・中東から発注を受けているという。ニューヨークのチェンビオ・ディアグノスティクスは、同社の抗体検査キットは400万ドル相当の注文をブラジルから受けたと述べ、米国内でも複数の機関が同検査キットの調査を予定しているという。

こうした検査は比較的低コストで簡単であり、指先を針で刺して採取した血液を用いる。10─15分で結果が得られるものもある。診断検査よりもはるかに容易に、感染検査の範囲を拡大できる可能性がある。

研究者や感染症専門家によれば、この新型ウイルスに対する免疫がどれくらい持続するのか、検査の精度はどうか、どうやって検査を展開するのかといった問題は数多く残っているという。今のところ、ウイルスを撃退した人がどれくらいいるのかは分からない。

一部の公衆衛生の専門家や臨床医によれば、検査の範囲をもっと拡大していくのであれば、医療従事者や救急隊員が優先されるべきであるという。医療スタッフのなかで免疫が確認されれば、彼らは検疫の対象とならずに、急増の一途をたどる新型コロナウィルス患者の治療を続けることができるからだ。

ミネソタ大学医科大学院のアダムス・ダドリー教授は「もし自分がすでに感染し、治癒していたとすれば、できるだけ早く最前線に戻りたい」と話す。「その場合、私はある期間の免疫を備えた、実質的に疾病を阻止できる『コロナ・ブロッカー』になれるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エヌビディア、サウジ政府系ファンドのAI新興企業

ワールド

WHO、飢餓による子ども発育影響懸念 ガザ、物資搬

ビジネス

米4月CPI2.3%上昇、約4年ぶりの低い伸び 利

ワールド

中国、14日から米製品への関税10%に引き下げ 9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 9
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中