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観光業の呪い

子供たちを食い物にする「孤児院ツアー」は偽善ビジネス

GOOD INTENTIONS DO WRONG

2020年3月25日(水)20時10分
ピーター・シンガー(プリンストン大学教授、生命倫理学)、リー・マシューズ(孤児院問題研究家)

そもそも、ツアー客が「いい」孤児院と悪い孤児院を見分けることなど不可能だ。「いい」孤児院など存在しない。大災害や紛争などの影響で、一時的に施設への収容を必要とする場合はあるだろう。しかし原則に立ち戻るなら、やはり子供は施設よりも(誰かの)家庭で育つほうがいい。それに、貧しい国々では行政の監督が行き届かないから、孤児院が子供の人身売買や強制労働、搾取の温床になりやすい。

このように、孤児院ツアーは初めから破綻している。ツアー客の寄付がなければ孤児院の運営は成り立たず、子供たちが路頭に迷うという議論もあるが、とんでもない。そもそも子供たちの大半は、そんな施設に入る必要などなかった。孤児院ビジネスがなければ、その子たちは地域社会にとどまり、孤児院よりまともな環境に生きていたはずだ。客寄せのための孤児需要をなくせば、「孤児」の供給は自ずと減る。

いま孤児院に入れられている子供たちは「囚人化」の影響を含む数々のトラウマを抱えており、家庭的な環境での専門的ケアを必要としている。お金があるなら、そちらに寄付するのが筋だ。

©Project Syndicate

<2020年3月24日号「観光業の呪い」特集より>

【参考記事】【緊急ルポ】新型コロナで中国人観光客を失った観光地の悲鳴と「悟り」
【参考記事】殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

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