最新記事

少女兵

殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

When Young Girls are Forced to Go to War

2020年1月24日(金)17時00分
アビバ・フォイアスタイン(テロ対策専門家)

ウガンダの武装勢力LRAの元少女兵、エスター COURTESY OF WRITER AVIVA FEUERSTEIN

<武装勢力に誘拐され残虐行為に加担させられた少女たちは、解放後も偏見の目にさらされる――彼女たちが笑顔を取り戻すために必要な支援とは?>

マーサが初めて人殺しを強いられたのは10歳の時だ。小さな体に不釣り合いな長いおのを持たされ、村人の首を切るよう命じられた。マーサはその前の晩、ウガンダ北部の自宅で就寝中に家に押し入った男たちに縄で縛られ森に連れてこられたばかりだった。連行される際、背後で銃が連射される音と闇を引き裂く悲鳴が聞こえ、人肉が焼ける異臭が鼻を突いた。

誘拐したのはウガンダの武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」。マーサは13歳になるまでに、ほかにも斬首や赤ん坊を殴り殺すなどの残虐行為を強いられ、村々への襲撃にも加わった。命令に逆らった子供は見せしめのため手足を切り落とされたり、唇に金属の錠前をはめられたり、死体の上で寝かされたりする。

マーサはろくに食べ物も与えられず、日常的な暴力に耐えて森で生き延びた。いつか逃げ出して家に帰ろう。その思いだけが支えだった。

magw200124_Girls1.jpg

1986~2005年に6万6000人超の子供を誘拐したLRAの指導者ジョゼフ・コニー(手前) ADAM PLETTS/GETTY IMAGES

ユニセフ(国連児童基金)の調査によると、LRAが1986年から2005年までに拉致した子供は6万6000人を超える。「子供の兵士」という言葉から多くの人が連想するのは、小さな体に銃を背負い、迷彩服を着て声を合わせてスローガンを叫ぶ洗脳された少年たちの姿だろう。少女まで殺戮に駆り出されていることはあまり知られていない。

私は学位論文執筆のために、さらにテロ対策専門家としてニューヨーク市警に勤務してからは休暇中に、ウガンダ、スリランカ、インドネシア、コロンビアで元少女兵50人に面談調査を行った。

武装勢力に加わっていたことは、少女にとっては少年以上に深い恥辱となる。彼女たちは救済されるか逃げ出して家に帰ってからも、長く白い目で見られる。だが、少女兵に特有の問題はほとんど知られていない。

紛争地域に入るのは困難で、報道も少ない。加えて国連の調査・検証の基準が厳格なこともあり、世界中で少女兵がどのくらいいるか正確な数字は把握できない。それでも国連によると2000年以降、武装勢力から解放された子供の兵士は少なくとも11万5000人に上り、うち最大4割は少女とみられる(国連が確認した数は実数のごく一部にすぎないと専門家は指摘している)。

誘拐された少女の一部は戦闘に駆り出されるが、多くは物資の運搬や調理、偵察や負傷者の手当てをさせられ、幼妻にされる子もいる。性的暴力は日常的で、LRAに8年間拉致されていたジャネットという少女の話では、メンバーは成人女性よりもHIV感染のリスクが低い未成年者を好むという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:ラピダス半導体にIOWN活用も

ビジネス

中国、国有メーカー2車種を初の自動運転レベル3認定

ワールド

インド貿易赤字、11月は縮小 政府高官「米との枠組

ビジネス

日本生命、医療データ分析のMDVにTOB 完全子会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中