最新記事

少女兵

殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

When Young Girls are Forced to Go to War

2020年1月24日(金)17時00分
アビバ・フォイアスタイン(テロ対策専門家)

magw200124_Girls2.jpg

LRAに村を破壊された避難民を収容するウガンダ北部のキャンプ CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

武装勢力による少女誘拐に世界の関心が集まったのは2014年4月に起きた事件がきっかけだ。ナイジェリアの過激派組織ボコ・ハラムが北東部チボクの寄宿学校を襲撃し、少女276人を誘拐した。

その後、少女たちの多くは救出されて家族と再会し、人々は安堵したが、同時にこうした少女を助けようという機運が盛り上がった。有名人の呼び掛けでインターネット上には「#bringbackourgirls(少女たちを取り戻そう)」のハッシュタグが広がり、ナイジェリア政府も救出された少女に心のケアを提供するなど対策に乗り出した。一部の少女は渡米して、アメリカの高校を卒業。何人かはホワイトハウスにも招かれた。

武装勢力の下に戻る子供も

だが、誘拐された少女たち全員が解放後に温かい支援を受けられるわけではない。多くは家に帰ってからもトラウマにさいなまれ、「元少女兵」の不名誉な烙印を押されて身の置き場のない日々を送っている。

私が会ったとき、マーサは21歳になっていた。LRAの監視下に3年間置かれた末、逃げ出してから8年がたっていた。

初めのうち彼女はうつむいたまま、じっと押し黙っていた。そして声を振り絞るようにして、自分でも認めたくない屈辱を吐き出した。「こんな思いをすると分かっていたら、森から逃げなかったのに」

magw200124_Girls3.jpg

元LRA少女兵のマーサ COURTESY OF WRITER AVIVA FEUERSTEIN

実際、命からがら逃げ出したのに自分の意思でまた武装勢力の下に戻る子供は後を絶たない。その割合は推定10人中3人に上る。耐え難いのは周囲の偏見だ。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療と職業訓練を受けても、差別は根強く、経済的・社会的な孤立に追い込まれる。元少女兵の汚名に悩み、トラウマからの回復もままならず、家族や友人との関係が壊れるケースも多い。

社会復帰の難しさは少年兵と少女兵に共通する部分もあるが、明らかな違いもある。話を聞いた元少女兵の多くは、元少年兵以上に職探しに苦労していた。

汚名はわが子にも付きまとう

LRAの下で6年を過ごし性的暴力を受けたミリは解放後に職を探したが、「傷物」を雇えば評判が悪くなると、どこに行っても断られた。1年間捕らわれていて少年兵と共に戦闘に駆り出されたレベッカも、女のくせに暴力を振るうなんてとんでもないと門前払いを食らった。

マーサはどこにも雇ってもらえないので、自分でアクセサリーを作って売ることにした。それでも彼女の過去を知る顧客は、そこに付け込んで商品を安く買いたたいた。

世界銀行と国連によると、法律上の差別が女性の資金調達や不動産所有を制限し、起業の可能性を狭めているケースもある。こうした偏見が特に強いのは、女性が不利な立場に置かれている地域だ。稼げる仕事がなく、飢えに苦しむこともある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中