最新記事

野生動物

豪森林火災後も死に続けるコアラたち

Scientists find burnt, starving koalas weeks after the bushfires

2020年3月18日(水)18時19分
ロマーヌ・H・クリステスク、セリーヌ・フレール

火災後に死んだコアラを調べるクリステスク博士 DetectionDogs for Conservation

<焼け野原となった生息地で救助チームが発見したのは、ひどい火傷を負い、住む場所も食べ物も失ったコアラだった>

昨年9月からオーストラリア南東部で続いた過去最大の森林火災で、コアラが受けた被害は国内外で大きく報道された。現在、火災は終息の方向に向かっているが、野生生物の危機的状況はまだ終わっていない。炎を生き延びたコアラも飢えや脱水、煙の吸引、その他の危険で死にかけている。

私たち「自然保護のための探知犬」チームは過去3週間、ある野生動物保護施設で救助活動を行った。その間、火災による倒木に押しつぶされたコアラや、火災が通過した後、食べ物を探すためにまだ煙がくすぶる地表に降り、手足に火傷を負ったコアラを何頭も発見した。つい先日見つけたコアラの子供は親を失い、やせ衰え、手足の肉球が焼けただれていた。

負傷がもとで感染症になったり、火災の煙を吸いこんだことが原因で死亡するリスクもある。ケガをしていないコアラも、焼け野原になった生息地で食べ物を見つけるのは難しく、飢えに直面することもある。

コアラの死をこれ以上増やさないために行動する時間がはまだある。ただし、そのためには人々の助けが必要だ。

今すぐ救いの手が必要

干ばつ、気候変動、土地の開発による水と餌の不足で、コアラはすでに生存を脅かされていたが、オーストラリア南東部の火災は、コアラの生息地を広範囲に破壊した

ニューサウスウェールズ州で最近発生した火災だけでも、推定5000頭のコアラが死亡したとみられている。3頭に1頭が犠牲になった計算だ。

私たちは、助けを必要とする野生生物を見つけるために犬を訓練し、現場に送り込んでいる。

昨年11月以来、私たちは探知犬をニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の火災現場にほぼ毎週連れて行き、生き残ったコアラを探してきた。今回、コアラ探しに参加した探知犬ベアは、コアラの糞だけでなく、コアラ自体を見つけるように訓練されている。

コアラ探知犬ベア


国際動物福祉基金は、私たちの団体と、地元の野生生物救助団体やその他のコアラ保護活動家との活動調整を支援している。

森林火事が収まっても、焼け野原になった生息地には食物や水が不足し、体を隠す樹木もなくなってしまうため、コアラの生存に適さない場所になることが多い。日差しを遮る木陰がなければ、コアラは体温が上がり過ぎて死んでしまう。

コアラ探しは、そう簡単ではない。コアラは森に紛れ込むのがうまく、静かで、たいていの場合、じっと動かずにいる。しかし犬は、人間の目に見えないものの匂いを探知することができる。犬と熱探知カメラを装備したドローンを組み合わせると、コアラの発見率は大幅に上昇する。

火災で死亡したコアラはほとんどが灰と化し、死亡数として数えられていないと私たちは考えている。しかし昨年11月以来、39日間の捜索で、私たちはケガや病気、脱水、飢餓に苦しむコアラを40頭以上、そして悲しいことに死んだコアラを6頭発見した。

また、火災の前にコアラが暮らしていた樹々のところに戻っても、木陰を作る上部の枝葉が完全に燃え落ちているという状況も目にした。焼失を免れた小さな区画で生き延びるコアラもいるが、生息に適さない広大な土地に囲まれて、孤立した状態だ。

火災現場で生きたコアラを見つけた場合、私たちは保護を試み、地域の野生生物トリアージ・センターまたはコアラ「病院」に搬送して、獣医の診断を受ける。火傷は見ればわかるが、火災の煙を吸いこんでいるかどうかはわからない。状態の悪いコアラは、完全に回復するまで治療を続けなくてはならない。

この3週間でずいぶん悲惨な光景を目にした。スノーウィー・マウンテンズでは、火災を生き延びた2頭のコアラが、倒れた木に押しつぶされて死んだ。そのうち1頭は最初、倒れかけた木の上にいて、助けたくても助けられない状態で2日間が過ぎた。そして3日目に、倒れた木に押しつぶされて死んだ。

つい先日も、足に火傷を負ったコアラを発見した。私たちが救出しなければ、このコアラは木に登ろうとして激しい痛みに苦しみ続けただろう。最近助けた孤児のコアラは手足に火傷を負い、極限まで痩せ細って体重は2キロしかなく衰弱しきっていた。

火災で死んだコアラを見ることは、覚悟していた。だが実際には、火災を生き延びた後に死んだコアラを見るほうが辛かった。もっとたくさんの犬と、もっと大規模なチームで探していれば、救えたのではないかと考えずにはいられなかった。

募金で可能性を広げる

コアラの捜索救助チームは、探知犬ベアとそのハンドラー、ドローンの操縦士、コアラを捕獲するスタッフで構成されている。こうした活動には金がかかる。これまでの活動の資金はすべて国際動物福祉基金から提供されてきた。

さらなる救助活動の費用をまかなうために、私たちはオンライン募金活動を立ち上げた。また今年の経験から、火災のシーズン前に機材やチーム、予算を確保するなど、来年の活動をより効率的にする方法を学んでいる。この募金でそれが可能になることを願っている。

壊滅的な火災の後で、生き残ったコアラを救い、元の状態に回復させることが重要だ。コアラの繁殖はゆっくりとしている。今年、より多くのコアラが救助され、繁殖できれば、コアラの数の増加は速くなる。そして、私たちが救うコアラはすべて、特定の遺伝子構造をもっている。この遺伝的多様性を保存することは、将来、種としてのコアラが新たな試練に直面した時に役に立つだろう。

(翻訳:栗原紀子)

The Conversation

Romane H. Cristescu, Posdoc in Ecology, University of the Sunshine Coast and Celine Frere, Senior lecturer, University of the Sunshine Coast

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中