最新記事

大気汚染

新型コロナウイルスによる経済活動制限が、大気汚染を改善し多くの生命を救った、との推定

2020年3月18日(水)17時00分
松岡由希子

イタリア北部で二酸化窒素の排出量が大幅に減少した...... ESA-YouTube

<新型コロナウイルスによる経済活動の制限によって、大気汚染が大きく改善していることがわかった。このため多くの生命が救われた、との研究が発表された......>

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界各地に広がり、一般市民の外出禁止や工場の操業停止などが相次いでいる。このような人間の経済的・社会的活動の制限に伴って、大気汚染が大きく改善している面もある。

中国、イタリアで二酸化窒素の排出が大幅に減少

欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星「センチネル-5P」が観測機器「トロポミ」を通じて収集したデータを比較したところ、中国では、20年2月10日から25日までの二酸化窒素(NO2)の排出量が1月20日に比べて大幅に減少していることがわかった。

china_trop_2020056.jpgESA

同様の現象はイタリアでも確認されている。1月1日から3月11日までに「センチネル-5P」で観測されたデータの推移をみると、特にイタリア北部のポー平原で二酸化窒素の排出量が減少している。「センチネル-5P」のミッションマネージャーを務めるクラウス・ツェナー氏は「イタリアが事実上封鎖され、交通や産業活動が減ったのと同時に、二酸化窒素の排出量が減少している」とコメントしている。

米スタンフォード大学のマーシャル・バーク准教授は、3月8日、「中国での大気汚染の改善によって、大気汚染による死亡者数が減少した可能性がある」とのシミュレーション結果を学際研究グループ「Gフィード」の公式ブログに投稿した。

バーク准教授は、北京・上海・広州・成都の中国4都市を対象に、在中国米国大使館・領事館が測定したPM2.5濃度のデータを用いて、2020年1月から2月までの値と2016年から2019年までの値とを同期比で分析した。その結果、2020年1月から2月までの間は、PM2.5が1立方メートルあたり15マイクログラムから18マイクログラム減少していた。

CityPM25_clean.jpg

中国の大気汚染の改善で、3000人〜8万人弱の生命が救われたと推定

また、バーク准教授は、香港科技大学らの研究チームが「2008年北京オリンピックに伴う大気汚染の改善によって死亡率にどのような影響があったか」を算出した2016年5月の研究成果におけるシミュレーションモデルを用いて、「中国でPM2.5が1立方メートルあたり10マイクログラム減った」という条件のもと、その効果を算出。その結果、5歳未満の子ども1400名から4000名と70歳以上の高齢者5万1700名から7万3000名の生命が救われたと推定されている。

大気汚染は、私たちに健康被害をもたらす社会的課題のひとつだ。汚染された大気にさらされることで、脳卒中や心臓病、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸器感染症などの疾病を引き起こすおそれがある。世界保健機構(WHO)によると、2016年には大気汚染によって世界で420万人が死亡している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中