最新記事

世界経済

NY株暴落、コロナショックが巻き起こす「市場パンデミック」

An Economic Pandemic

2020年3月10日(火)17時05分
キース・ジョンソン

リーマンショック以降で最悪の日になったニューヨーク証券取引所(3月9日) Bryan R Smith-REUTERS

<ウイルスの感染拡大を阻止するために世界各地で経済活動が停滞し、原油需要が減退し、株式市場がパニックに陥る悪循環が始まった>

新型コロナウイルスは、ヒトだけでなく経済にも感染を広げ始めた。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)にまつわる投資家の不安が増すなか勃発した原油戦争の波紋が、株式や金融市場をも呑み込んだ。米国債(10年債)の利回りが過去最低を更新したのは、アメリカ経済に迫りつつあった景気後退が予想以上に早く訪れるであろうことを示唆している。

北海ブレント原油の国際価格は3月9日、最大3割下落した。ニューヨーク株は取引開始直後から急落し、下げ幅は一時過去最高の2000ドルに達した。ダウ平均株価のこの日の終値は2013.76ドル(約8%)安で、2008年のリーマン・ショック以降で最悪の一日となった。

「新型コロナウイルスはヒトだけでなく、経済にも感染し始めた」と、ジュネーブ国際問題高等研究所のリチャード・ボールドウィン教授(国際経済学)は言う。特に打撃が大きいのが製造業で、アジアにある多くの工場の閉鎖、各地のサプライチェーンの混乱に加え、消費者が様子見モードのために自動車や電気製品など多くの製品の需要が落ち込むという「三重苦」に見舞われている。

<参考記事>新型コロナウイルス、感染ショックの後に日本を襲う4つの最悪シナリオ

市場を支配する恐怖

「経済大国が軒並み痛手を被っているため、経済全体への影響も大きい」とボールドウィンは言う。「この問題が経済に与えるショックは、過去のどのパンデミックと比べても桁違いに大きい」。投資家たちもそのことを認識しており、それが今、世界の金融市場を支配する恐怖の発生源になっている。

既に中国や東アジアで工場閉鎖や貿易の減少を招いている新型コロナウイルスの衝撃は、ついにヨーロッパに到達した。日本では2019年10~12月期のGDP成長率が年率でマイナス6.3%と大きく落ち込んだ上に、2020年からはウイルスの影響をもろにかぶる。ドイツやフランスも景気停滞に直面している。死者が増え続けるイタリアでは北部対象の移動制限が全土に拡大され、景気後退はほぼ決定的になった。

アメリカではドナルド・トランプ大統領が同ウイルスをめぐる懸念を一蹴し、ウイルスの脅威については「フェイクニュース」だと主張してきた。だがエコノミストたちは、ウイルス問題の余波が年内にもアメリカを景気後退に追い込みかねないと予測している。11月に大統領選を控えるトランプは9日、市場の取引終了後に会見を行い、ウイルス封じ込めのためのさらなる取り組みや、給与税の減税など景気対策の拡大を行うと表明。さらに10日に米議会と協議した上で「重要な」政策を発表するつもりだと述べ、「この問題は世界に不意打ちを食らわしたが、我々はとても優れた対処を行ってきた」と自画自賛した。

<参考記事>世界経済を狂わせる新型コロナウイルスの脅威──最大の影響を受けるのは日本

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中