最新記事

サイエンス

世界で最も先進的な人体の実験モデルが開発される

2020年3月6日(金)18時15分
松岡由希子

多臓器人体チップ(今回の記事とは別のモデル)HESPEROS

<ヒトの主要な臓器である心臓、脳、肺、肝臓、精巣......などのオルガノイド(ミニ臓器)で構成された人体の実験モデルが開発された......>

試験管内で三次元的に培養されたオルガノイド(ミニ臓器)は、実際の臓器よりも小さく、単純化されているが、実際の臓器とそっくりな解剖学的構造を持ち、神経活動や排泄、濾過など、臓器の特定の機能を再現できることから、創薬プロセスの効率化や開発リスクの軽減に役立つと期待されている。

成人の臓器の約100万分の1に小型化

米ウェイクフォレスト大学再生医療研究所(WFIRM)の研究チームは、ヒトの一次細胞や幹細胞からできた三次元のオルガノイドを用いて世界で最も先進的な人体の実験モデルを開発した。一連の研究成果は、2020年2月26日、学術雑誌「バイオファブリケーション」において公開されている。

このモデルは、ヒトの主要な臓器である心臓、脳、肺、肝臓、精巣、結腸のほか、血管細胞、免疫細胞、線維芽細胞を含めた複数種のオルガノイドで構成されている。

ヒトの組織細胞のサンプルを分離してヒトの臓器のミニチュア版に改変したもので、いずれのオルガノイドも成人の臓器の約100万分の1に小型化されている。

心臓が毎分約60回拍動し、肺が周囲から空気を吸い込み、肝臓では毒素を分解するなど、人体と同じ機能を果たし、実験室環境下で人体の一部の機能を再現できるのが特徴だ。

医薬品の毒性を測定することにも成功

このモデルは、医薬品の毒性評価や副作用の発見に役立つプラットフォームとしての活用が見込まれている。アメリカ食品医薬品局(FDA)によってリコール(自主回収)された医薬品の毒性を測定することにも成功した。

標準的な二次元細胞培養システムや動物実験モデルでは毒性が見つからず、3段階のヒト臨床試験でも副作用が検知されなかった医薬品について、このモデルでは、その毒性を検知し、ヒトで認められる副作用も再現できたという。

研究論文の責任著者でウェイクフォレスト大学再生医療研究所の泌尿器科医アンソニー・アタラ博士は、このモデルの最も重要な有用性について「創薬初期段階でその医薬品にヒトへの毒性がないかどうか確認でき、患者一人一人に合わせた医薬品の『パーソナライズ(個別化)』にも活用できる可能性がある」と指摘し、「創薬や治療プロセスの初期段階で問題のある医薬品を取り除くことで、多くの人々の生命を救い、コストの節約にも寄与するだろう」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン「核兵器を追求せず」、大統領が国連演説 制裁

ワールド

イスラエル軍、ガザ市中心部へ進撃 医療施設への影響

ビジネス

次期FRB議長に偏見ない人材を、一部候補者の強さに

ビジネス

米財務長官、航空機エンジンや化学品を対中協議の「て
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    映画界への恩返しに生きた、ロバート・レッドフォード…
  • 8
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    福音派の終末予言はまた空振った?――キリストが迎え…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中