最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルスがアベノミクスの息の根を止める

Japan’s Economy May Be Another Coronavirus Casualty

2020年3月2日(月)19時00分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

政府のコロナウイルス対策専門家会議の副座長で、独立行政法人地域医療機能推進機構の理事長である尾身茂は、完全なシステムなどは存在しないし、日本も例外ではないと語る。当局者らは24時間態勢で対応に当たっており、さらなる集団感染を防ぐとともに死亡率を下げることに全力を挙げているとも語った。

日本の対応が成功するかどうかは分からない。だが、人はもちろん経済が、新型コロナウイルスの大きな痛手を被ったのは間違いない。

コロナ問題が起きる前から日本は景気後退の入り口にいた。10〜12月期のGDPは、消費増税の影響により年率換算でマイナス6.3%だった。

新型コロナウイルスの感染拡大が、こうした状況をさらに悪化させることはほぼ間違いない。ゴールドマン・サックスは1〜3月期のGDPは前期比マイナス0.3%で、今年1年を通しての成長率はマイナス0.4%になると予測している。

2月25日に政府が発表した対策基本方針は、景気をさらに悪化させることになりそうだ。新たな集団感染を防ぐため、政府は多くの人が集まったり、互いに濃厚接触するようなイベントを当面、見合わせるよう呼びかけている。企業がパーティーの開催を中止するなか、ろうそくに照らされたおしゃれなディナーも職場の仲間との飲み会もお預けだ。

レストランは閑古鳥、テーマパークは閉園

多くの大企業も政府の指示にならっている。大手広告代理店の電通は、社員1名が新型コロナウイルスに感染していたことを受けて本社の5000人の従業員を在宅勤務にした。化粧品大手の資生堂も8000人の従業員に在宅勤務を命じた。大手企業の中には、6人以上での集まりをやめるよう命じたところもあれば、すべての出張を取りやめたところもある。

経済への影響は日増しに大きくなっている。日経平均株価は2月の最後の週、9.6%も下げた。ある大手の国際ホテルチェーンでは客室稼働率が通常の半分にあたる40%まで落ち込んでおり、さらに下がる見込みだという。東京都心にあるレストランの中には、予約が通常の半分にまで減ったところもあるという。サッカーのJリーグは15日まですべての試合を中止、東京マラソンは一般参加者抜きで行われるなど、スポーツ界にも自粛の動きがでている。世界有数の人気テーマパークである東京ディズニーランドも少なくとも2週間の閉園を決めた。

消えたインバウンド

こうした状況から、アベノミクスにとって大きな成功要因の1つであったインバウンド観光が最大の被害を受ける可能性がある。昨年、訪日外国人旅行者全消費額の40%を占めた中国人観光客は、団体旅行が禁止されたため、日本から姿を消した。

昨年、貿易優遇措置の除外をめぐってすでに日本に腹を立てていた韓国からの観光客も大幅に減少した。この二国からの旅行客は、約3200万人に達した昨年の訪日外国人旅行者総数のほぼ半分を占めていた。

また、伝染病の世界的大流行となればオリンピックの開催そのものが危ういが、開催されるにしても東京はその舞台に適しているのかという疑問もささやかれている。

国際オリンピック委員会(IOC)のディック・パウンド委員(カナダ)はAP通信に、状況を評価判断するために2〜3か月様子を見る可能性が高いと語った。

このコメントに対して東京都の報道担当者は、少なくとも今のところ、「IOCによれば、この委員の発言は公式な見解ではなく、予定通りオリンピック開催に向けて準備を進めている、ということだ」と、語った

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中